46.焼却炉と停電。47.焼却炉の難敵は水分。48.焼却炉の予備加熱。
46.焼却炉と停電。
焼却炉で一番怖いのは停電である。炉の中では千度近い温度で燃えているのだから、停電があればまず誘引ファンが止まる。焼却炉で一番弱いのはバグフィルターとバーナーである。バーナーから炉の中のガスが逆流すれば、バーナーの中のチューブや配管が焼ける。バーナーには逆流しないようにバーナーファンがついているが、停電ではこのバーナーファンさえ止まり、すぐに逆流が起こるから、停電が起こればすぐにバーナーを開いて、熱から守ってやる必要があり、普段から焼却炉を運転する者は心得ておくことである。
しかし、一番困るのは集塵機のバグフィルターで、バグの耐熱温度は300度くらいはあっても使用温度は200度以下である。しかし停電で冷却ポンプが止まって、炉内の高温ガスが流れ込めば間違いなく燃える。このバグが非常に高価で、全部交換となれば、間違いなく数百万円の単位の費用が掛かる。そのためにバグにはバイパスラインをつけて、停電になればこれを開き高温ガスを煙突の方向に逃がすようになっている。
余談だが県の担当者は、このバグフィルターにバイパスラインをつけることを嫌った。なぜならバグフィルターが少しでも長持ちするように、普段からバイパスを開いて、集塵機を通すことを嫌う業者がいたからだ。こんなことをすれば集塵機を通さない燃焼ガスが、煙突から出ることになる。業者と県との信頼関係の問題である。停電になれば、すなわち電気がOFFになれば、バグフィルターのダンパーが閉じて、バイパス側のダンパーが自動的に開くようにしておくことが肝要である。これが自動的に行われると、普段はバイパスを使うことはない。
バグの材料はグラスウールとかテフロンなど、耐熱がある材質を使う。耐熱性と言っても4、500度くらいであるから、焼却炉のガスが冷却されずに直接バグフィルターに入れば、間違いなく燃える。グラスウールは溶けても燃えることはないが、問題はテフロンである。テフロンは塩素と同じくハロゲン元素のフッ素であり、燃えると煙突から放出されることになる。塩素より猛毒であるフッ素が煙突から放出されるとどうなるか、いわずもがなである。過去にも何度かこんな事故はあったようだが、あまりニュースにもなっていないようだから、すべてがオープンにならなかったのかもしれない。しかし、焼却炉の周辺の作業者にとっても実害がないとは言えないから、真剣に考える必要がある。
韓国でのフッ酸ガスの事故のニュースによれば、吸引すると灼熱感、咳、目まい、頭痛、息苦しさ、吐き気、息切れ、咽頭痛、嘔吐などの症状が遅れて現れることがあるという。眼に入っても重度の障害があり、皮膚に接触すると容易に浸透し、濃度の薄い弗化カルシウムの刺激により、数時間後にうずくような痛みに襲われる。浴びた濃度が高いと、骨を犯され手を切り落としたり、心室蠕動により死に至るというから決して油断してはいけない。
47.焼却炉の難敵は水分。
物が燃える時一番の難敵は何かと聞かれたら、私は間違いなく水分だと答える。物が燃える時、燃焼のためには発熱量という燃焼物固有の熱量(カロリー)があり、これと空気と熱源があれば、一定の温度に達したとき物は燃える。一つの燃焼物が熱源となり、周囲の物質の温度を上げて連動的に燃やすことになる。
ところが全ての物質に含まれる水分には、物を冷却し熱量についてはマイナスの働きをする。水の温度を上げるには1kgの水を1℃上げる熱量を1kcalということは誰でも(忘れた人は別にして)ご存知のことである。この水を常温(20℃として)から100℃まで上げようとすれば80kcalの熱量があればいい、ということは誰でも理解できる。しかし物が燃えるのは全ての物(黄燐などの例外を除いて)は100℃を越えなければならない。しかし、水は100℃を超すためには潜熱という厄介なものがある。
潜熱とはちょっと記憶力のいい人は「蒸発潜熱」という言葉で覚えておられるだろう。水が蒸発して蒸気にならないと100℃(圧力を無視して)を越えられない。なぜなら水を蒸発させるには蒸発潜熱という一定の熱量が必要なのである。この熱量を加えなければ水は蒸気にならない。100℃の水を蒸気にするためには1㎏あたり538.8kcalの熱量を必要とする。判り易く言えば100℃までは1℃に1kcalあればよかったものが100℃から101℃にするためには約540倍の熱量が必要となる。この熱量が必要ということは、他の燃焼物からこれだけの熱を奪うことである。だから水分が多いと燃えにくいのだ。
固定床の焼却炉ではだいたい水分30~35%が限度で、それ以上はよほど工夫しなければ燃えないので、ロータリーキルンや自然乾燥で水分を落として燃やすのが一般的である。水分の多いものとして食品残渣や一般の家庭ごみ(水分45%~50%)などは、乾燥ゾーンのついたストーカー炉で燃やす。医療廃棄物のおむつ(水分63%程度)などはバーナーを使って強制燃焼をする以外にないから処理費は高くなる。
このように水分の多いものは焼却炉にとって一番難しいものだ。塩素については入門5、クリンカーについては入門7、を参考にして頂きたい。焼却炉の難敵は1に水分、2に塩素、3にクリンカーと考えて間違いないだろう。
48.焼却炉の予備加熱。
焼却炉を予備加熱しないと、焼却炉に火を入れて10分から15分の間煙が出る。よく燃えている間は煙の出ない焼却炉でも、燃やし始める時に煙が出ると、これは焼却炉が予備加熱の出来る構造になっていないか、運転する作業者が手を抜いているかのどちらかである。
予備加熱とは何かというと、燃焼物が燃えた時に出る一酸化炭素が燃える温度が609℃であるから、これ以上に炉内温度を上げておくことである。この予備加熱をしておけば、一酸化炭素は一瞬に発火し酸素と反応して、二酸化炭素となって完全燃焼をする。このことが起これば一酸化炭素は連続的に反応を起こして、完全燃焼し自然が連続して煙突から煙が出ない。
これが予備加熱の意味である。中には予備加熱は800℃まで行うと思っている人がおり、懸命にバーナーを燃やして温度を上げようとする。しかし温度が上がると、煙突はドラフト作用が働き熱い空気を吸いだしてしまう。そのため炉内温度は平衡状態になりそれ以上、いくらバーナーを燃やしても、灯油の無駄な消費だけで温度は上がらない。この状態で温度が一酸化炭素の発火温度609℃以上あることが望ましい。この温度に達しない場合はバーナーの能力が小さいと考えられる。
これを一次燃焼室で行うか、二次燃焼室で行うかだが、私は二次燃焼で予備加熱を行うことをお勧めしたい。二次燃焼室が609℃に達した段階で、一次燃焼室に点火して焼却を行えば、運転当初から煙の出ない焼却炉が出来る。この状態でも予備加熱の時間や燃料消費を嫌って、予備加熱を行わないなら、それは焼却炉運転者の責任である。
運転当初に煙が出ると、これをビデオで撮られ「この焼却炉は煙を出す焼却炉⌋というレッテルを貼られ、住民との裁判などでは「不良焼却炉」いうことで改造を命じられたり、運転停止に追いやられるケースになる。