12.高圧ボイラーは怖い。13.サイクロンスクラバー。

12.高圧ボイラーは怖い。

 

 私が一番怖いもの、それは人身事故である。私の設計する焼却炉には炉内での爆発を防ぐために、必ず防爆扉をつけていた。ボンベや薬品の缶やビンを投入しないように注意していても、燃焼物に紛れ込むことがある。年に何回か防爆扉が開くという話も聞いた。それでなくとも不完全燃焼の一酸化炭素は、溜まれば爆発物である。停電の際は「電気が復旧すれば一番先に誘引ファンを10秒間は回して下さい⌋と必ず炉の運転者に注意をしておくことは忘れない。だから高圧ボイラー焼却炉に併設するなど、もってのほかだ。だから焼却炉に高圧蒸気を作って回す、蒸気タービンの発電機は絶対に薦めない。それがスターリングエンジンの発電機を薦める理由なのだ。
 IHI
やコベルコから、オーガニックランキンサイクルのバイナリー発電機が発売されたとき、どんなに喜んだことか、想像していただきたい。焼却の熱を使って蒸気を作り、それを600くらいの高温蒸気にしてタービンを回す、確かに効率の良いのはわかる。しかし廃棄物の焼却で得た燃焼ガスを熱交換して蒸気を作ること、それがどんなに不安定なものか、理解してもらために以下に記そう。

 
蒸気を作る場合は熱効率の関係で水管(ボイラーのチューブ内に水を通す)が普通である。本来、熱交換器は汚れの多い流体をチューブ内に通すのが常識で、理由は掃除をしやすいためである。清水と燃焼ガスではどちらが汚れやすいか、当然燃焼ガスである。だから蒸気を作る熱交換器は、チューブの外を掃除する必要がある。掃除を頻繁に行わないと、タールや煤塵で熱交換効率が極端に悪くなる。となると、当初の予定通りの高温蒸気が出来なくなり、発電能力が落ちる。これは想定しておかなくてはならない。
 
一方、お湯を作る場合の熱交換器煙管(熱交換器のチューブ内に燃焼ガスを通す)が普通である。だから、煙管内を掃除しやすい構造にしておけばよい。チューブの内側と外側、どちらが掃除しやすいか経験者なら簡単に理解できる。これが蒸気ではなく、お湯を使った発電を進める理由である。チューブが汚れたとき、どれだけ効率が落ちるか、私には経験がないので判らないが、ともかく掃除を徹底しないと、蒸気タービンによる発電は怖い。
 
お湯を使うIHIやコベルコのバイナリー発電においても、水の質の悪いところ、特に硬水の多い地域では気をつけないと水垢が付きやすい。滋賀県の北部一帯は石灰岩の地層で、軟水器を使っても安心出来ないという経験がある。ともかく運転する業者は掃除を徹底し、製作する業者は掃除をしやすく作ること、これは最も重要な話である。
 
それと、もう一つ大切なこと、高圧の機器を扱うには設計、製作、使用に高圧のボイラーを取り扱うための資格が必要だということに注意されたい。お湯を使う熱交換器は、1気圧以上にならないように安全弁をつけておけば湯沸かし器である。

 

 

13.サイクロンスクラバー。

 

 平成9年の法律改正に認められている高度の集塵機は電気集塵機とバグフィルター、そしてスクラバーである。電気集塵機も横浜大学のダイオキシンが出来る集塵機」と言う論文が出て以来評判が悪く使われないし、バグフィルターは突然の停電や断水には弱い。スクラバーも色んな種類があるが、その中でもサイクロンスクラバーはサイクロン集塵機に高圧の水を噴霧するだけの集塵機である。集塵効率はだいたい90~95%程度で、構造的には簡単でそれほど傷むところがない。直接高圧水を噴霧するから、燃焼ガスを急冷出来るので、余分な冷却塔は必要としない。
 

 一番の特性は突然の断水が起こってもサイクロンとして機能するから、80~85%程度の集塵効率がある。サイクロンスクラバーの先端に煙突を立てておけば誘引ファンが停まってもドラフトが働いて、自然通風である程度のガスの吸引が可能である。
  
突然に高温の燃焼ガスが流れ込んでも破損せず、バグフィルターにはない強さがある。内部にステンレスの羽根を装着しておけば、滞留時間が長くなり集塵効率も冷却能力も上がる。廃プラの専焼炉や医療廃棄物を燃やす焼却炉で、燃焼ガス塩素系(HCl)の多いガスだとステンレスの羽根は使えない。過剰焼却(処理量を異常に越える)を行えば、高圧水でばいじんを流し切れず孔食腐食でステンレスに穴が開く。
 

 塩素系の燃焼物が多い焼却炉だとサイクロンスクラバーの内部は羽根を省略して、空洞にしておくことだ。ばいじん能力をカバーするためには、二段、三段のサイクロンを設けた方がいいだろう。ともかく停電が続けば、焼却炉もこんな知恵が必要なのである。

(追記)水を噴霧するサイクロンスクラバーは塩素系の多い廃プラや医療廃棄物の焼却の場合、サイクロンスクラバーの構造にフランジ部分パッキンには絶対にヤーンを使用しないことだ。塩素系の水が吹き出して半年もしないうちにボルトが腐食して切断されたり、外部の鉄板まで腐食される。小型のサイクロンスクラバー(内径1m程度)なら内部は空洞にして、パッキンにはプラスチック(粘土状)の耐火材を使用する。大きな炉の場合は絶対にバグフィルターにして消石灰を噴霧することだ。惜しむと間違いなく失敗する。      

 (追記)ガス中のダイオキシンを無くす為に急冷が一つの条件のなっているが、可能性がある水管やガス管の間接冷却では急冷が不可能でダイオキシンが残る可能性がある。ガスに対して噴霧する直接冷却が必要で、水噴霧をする事が最適でありガスの出口温度で水量をコントロール(電磁弁及びノズルの数)出来る冷却塔かサイクロンスクラバーが一番扱い易いと思われる。