22.熱負荷率と炉内容積。23.熱分解と薫焼。
22.熱負荷率と炉内容積。
日本の法律では一時期、熱負荷という概念があまり重要視されなかったので、大きな焼却炉が数多く作られた。今から20年くらい前の国の資料、全国都市清掃委員会の⌈ごみ処理施設構造指針解説⌋という書籍には、燃焼室熱負荷について「焼却炉形式、構造、炉規模、燃焼方式、ごみ質等を考慮し、実績等を勘案して定めるものとし、以下の値を標準とする。」とし、バッチ燃焼式···44×104~10×104 kcal/立米・h 連続燃焼式···8×104~15×104kcal/立米・h とされている。
熱負荷率の定義は、「炉内で可燃物が燃焼して熱を発生する場合、燃焼室容積(空間)1立米当り1時間に発生する平均熱量」である。具体的に言えば木くず(低位発熱量=3350kcal/kg)を600kg/hを燃やすとすれば、一時間に3350×600=2,010,000kcalとなり、熱負荷率40,000kcal/立米・hが許されるならば201/4≒50立米の内容積が許されることになる。
もし熱負荷率を100,000kcal/立米・hとすれば、20.1/1≒20立米の容積となる。この範囲でどの熱負荷率を使うかは、焼却炉設計者の裁量に任せられていたと言える。
しかし、焼却炉の容積は大きいと、それだけ空気量も必要であり、無駄な空気は炉内温度を下げることになる。焼却炉の容積は大きいからと言って良く燃える炉、効率のいい炉とは言えない。私はその頃熱負荷率80,000kcal/立米・hくらいで理想的な炉を設計していた。
最近では環境庁の事務連絡(平成10年9月3日)で「問13 焼却能力の算定方法を示されたい」の答えの中で
⌈参考(1)燃焼室熱負荷は焼却能力200kg/hクラスの廃棄物焼却炉平均で、概ね250,000kcal/立米・h前後⌋と書かれており、県の担当者はこれを根拠に制限を加えてくる。数百人の学者を集めて作った資料⌈ごみ処理施設構造指針解説⌋をたった一行の小さな参考文字で、簡単にひっくり返す国の無節操さが許せない。
いくら法律は変わっても、火の燃え方、自然の法則は変わらないものだ。私は今も80,000~150,000kcal/立米・hを使い、県に無理強いされた場合は、小型焼却炉の熱負荷率を250,000kcal/立米・hとした「根拠を環境庁に聞いてほしい」と言っている。未だに返事は聞いていないが、その答えを聞くまで私は自分の信念を変える気は無い。
23.熱分解、燻焼と焼却。
文献には「熱分解」という言葉も「燻焼.·熏焼」という言葉もない。「百科事典」に⌈熱分解⌋という言葉があるが、それは原油から重油や灯油、軽油を精製するときに使用する言葉で、焼却とは全く関係がない。また⌈薰煙⌋とか⌈薰蒸⌋という言葉はあるが「燻焼·薫焼」という言葉はない。焼却に関して「熱分解」とか「燻焼·薫焼」とかいう言葉を使うのは、造語か新語の類であろう。
もしこんな言葉を使って焼却炉を売り込んで来たら、それは9割方疑ってかかっていいだろう。知らない人は学者や有名メーカーにこんな言葉を使われると、すごい専門家のように思えるが、焼却炉に関しては全くの素人と考えるべきだ。ここで物が燃えるということを解説しておこう。
どんな物質にも発火点という言葉がある。発火点とは⌈空気中で物質を次第に加熱する時、自ら発火して燃焼を始める最低温度⌋である。発火点を一覧にすると下のようになる。
ポリプロピレン(201℃)ポリスチレン(282℃)メラミン(380℃)
テフロン(492℃)古タイヤ(150℃~200℃)新聞紙(291℃)
木材(250℃~260℃)木炭(250℃~300℃)エチレン(450℃)
一酸化炭素(609℃)泥炭(225℃~280℃)硫化水素(260℃)
当然、温度が上昇して燃焼物質からガスが発生したとき、出るガスはそのガスの発火点まで熱しなければ、たとえ酸素(空気)があっても燃えることはない。物質を熱した時に出る主なガスは一酸化炭素(CO)であるが、一酸化炭素の発火点は609℃であるから、このCOの温度が発火点を超えなければ燃えることはない。COが酸素と反応するとき熱を発し、この熱によって他のCOも燃えて熱を発する。この連鎖反応によって燃えることを自燃という。廃掃法の施行規則では、燃焼物は焼却炉内で800℃にするための、助燃装置をもうけるように規定されている。焼却炉の二次燃焼室は、この燃焼ガスを完全に燃焼(COを0%、CO₂を100%にすること=完全燃焼)させることが必要であり、200kg/h以上の処理能力をもつ焼却炉では、2秒以上の滞留時間を得るために二次燃焼の空間が必要なのである。
これらの燃焼装置の一番大きな問題は、COやHClがどのように処理されるかだ。COはやり方によってはCO₂にすることはできる。しかしClは元素であるから厄介だ。いくら熱をかけてもダメだし、塩素除去をしなければならない。でなければ灰(セラミック)や煤塵に吸着される。塩素を吸着した灰やセラミックは農地に使用可能なのか?「塩素を含んだ活性炭は使えない」と聞くが、私の知るところではもちろん使えない。