2)物が燃えるという事
◎焼却炉製作業者の心得(続)
●おむつは水分が64%あり。強制燃焼以外では燃えない。日本のストーカー炉の水分の限界は50%(東京、横浜の水分量)程度。おむつの燃焼には、500kgあたり250ℓ/8時間の灯油を必要とする。
●おむつが袋に入った状態では、炉に詰め込むとパッキン状になり、袋詰め状態の炉中上部は、下部からの熱により、炉の上部扉より蒸気や煙が噴出する。この煙を炉の下部に煙を炉の下部に引き込むための通気路を、炉壁に儲けなければならない。
●同様に空気穴やバーナーの穴もふさがれるので、空気供給のためにはロストルを用い、下部から空気も送り込む。ロストルは内部に水を流すような、100~150Φ程度SUS310Sのパイプを用いる。
●パッキン状のおむつの袋では、バーナーの炎はトンネル状になる。
●パッキン状の袋が下にずり落ちるためには、壁は3~5°程度の逆勾配にする事。すなわち下側を広くする。
●間接冷却だけでの冷却はなるだけ避ける。特に500℃~300℃の冷却は、ダイオキシンの再合成を考えておくこと。水の確保(小型炉で2ton/Hを消費)が出来なければ仕事は受けられない。空冷では煤塵中のダイオキシン濃度が3ng以下になることはありえないので、コンクリート固化するなど事後処理を考え、お客によく話しと相談をしておくこと。
●離島に設置する場合は輸送にかかる経費(船便)が異常にかさむので、見積もり時点で注意のこと。
●焼却炉の設置場所の近く、若しくは周辺に①一級河川や農業用水。②高圧鉄塔及び架線。③稲作の田圃や茶畑、葉物野菜畑。があった場合は避けるか、十分な注意を払うこと。
●組み立て現場に、必ず10tonトラックが入れる道、曲がり角、重量に耐える橋、通過するトンネルの高さを調べておくこと。
●出来上がった焼却炉で、運転者及び今後焼却炉に関わる人には懇切に説明し(説明書はあまり読んで貰えない)、自分で確認する時間を設ける。取扱い説明に関しては、説明を聞いた人のサインを貰っておくこと。炉の燃焼の問題とか、支払いの問題で裁判になった場合はこれが必要になる。説明を聞く人は、焼却炉の運転のみならず、休止(炉を止める事)に責任を持っている人が良い。緊急時の処置(地震、落雷、停電、断水)は絶対に話しておくこと。
●営業と顧客、県担当者との話し合いの内容を、技術担当者にも周知徹底する。特に組み立て、試運転で起こった問題は、技術担当者にフィードバックできるシステムにする。
●炉の寿命を客先に聞かれたとき、メンテナンス、予備品の定期的交換、必要部分の掃除の徹底、決められて処理量と時間を守れば15年間使えると答えてよい。設計者や、作る側はコスト高、手間が増えることを理由で手抜きしてはならない。コストを下げ、手間を減らしても、性能は落とさないことに知恵を絞るべきである。
◎炉の補助設備。
●昇りのコンベアーは水平より25度を越えてはならない。越えるとポリ袋に入れたものでも、コンベアーのスピードにより転がり落ちることがある。缶などの丸いものは袋に入れないと昇りコンベアーでは運べない。
●医療廃棄物は運びこまれた日に処理出来ない場合、保管が必要な場合は、腐敗を防ぐ温度以下に出来る、冷房装置をそなえた倉庫が必要となる。
●破砕機を焼却炉の前段に設ける場合、破砕物の大きさは10cm前後がいい。細かくしすぎると空気の流通が悪くなり、大きくすると燃焼に時間がかかる。
●ピットを掘る場合は、その深さで水が出ないか、必ず確かめておくこと。川の近く(伏流水がある)や元湿地帯だったところはなるだけピットを設けない。伏流水を止めるだけでも費用がかかる。
●ステージには手すり、メンテナンスが必要な所には広いステージを設け、工具を持って上る所はタラップではなく、両手を使える階段をつける。手すりの下には50~100mm巾のフラットバーで落下止めをつける。
●高温のダクト等の上につけるステージはなるだけ避ける。下に一次、二次燃焼室等、冷却部までの高温部分があるステージは絶対にネット状のものを使ってはいけない。メンテナンスや測定など、長時間作業する時のことを考える。
●炉の高温部の上には必ず、仮設でいいから鋼板の屋根を設けて、直接の雨水を避ける事。炉の寿命に大きく影響を与える。屋根の下には必ず風通しのよい隙間をつくる。
●炉を設置した処分場は、周辺から関係者以外は、自由に立ち入ることが出来ない、高さ3m以上の囲いを設けなければならない。その場合は周辺の事情をよく知ること。たとえば稲作の田圃などは、風を遮ることがない工夫とか、日光を遮るとまずい場合もある。周辺の住民との話し合いを大切にすること。
●日本の孤立した自治体では電気を供給出来ると喜ばれるケースがある。発電を出来る焼却炉、お湯が供給出来るなど、周辺の事情を考えて話し合いをすることも必要。
2.物が燃えるという事。
2-1.酸化という現象。
物質と酸素(O₂)が結びつくことを酸化と言う。酸化がゆっくりと起こる場合は発錆(錆び)といい、主に金属と接する場合が多い。可燃性の物質が一定の温度(発火点)以上で、酸素と接する時に起こるのが燃焼である。燃焼の内、急激に酸素と可燃物が接する現象を爆発と呼んでいる。爆発の場合の可燃物は気体だけではなく、液体も噴霧状態であるか、個体は粉末状(粉塵爆発)で、酸素と接する表面積が極端に広い場合に起こる。
2-2.火の三要素。
小学校で教わるものだが、案外忘れている人が多い。熱(温度)と燃える物(燃焼物)と空気(酸素)である。この内の一つが欠けても火は持続して燃えない。熱は酸化を促進する物であり、燃える物とは可燃物である。この可燃物を燃やし続けるものが空気の持続的な供給である。火を消すためには、このどれか一つを失くす必要がある。消火水は熱(温度)を抑える物であり、燃える物をなくすことは、森林火災等で木を切り倒して防火壁を作ることがこれに当たる。空気を失くすとは火に砂をかけたり、燃える物に蓋をして酸素を遮断することである。
2-3.煙の正体。
可燃物である木やプラスチックには炭素を多く含み、加熱することにより炭素は分離して一部は酸素と結びつき、熱と光を発する。このとき酸素と結びつかずに、気体で残る可燃ガスはそのまま冷えて小さな粒子となる。液体や固体の粒子が煙突から放出されると、これが人の目につき黒煙や白煙と判断される。そのほか、燃えずに残る成分によって、煙の色が様々に見える場合もある。大概は黒と白、あるいは二つが混ざったグレイである。ただし、煙と蒸気は判別しにくいものだが、白くて敷地の境界線あたりまでに消えるものは蒸気、「消えずに長く尾を引くものは、白くても煙」である。冷却水を直接噴霧で使用している炉では、夏場には蒸気は見えないが、冬場になると白い蒸気が雲のようにできる。これをよく知り、お客や近隣の人に説明をして、理解させること。この蒸気には、匂いが残る場合もあるが、特に直接的な実害はない。しかし、臭いを消さないと必ず風下の住民から苦情があると考えるべきだ。
2-4.灰とは何か?。
燃焼物である天然の有機物は炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)の元素と、人工的な燃焼物には塩素(Cl)で構成されている。これらの元素は高温で空気を供給して焼却すると二酸化炭素や塩化水素、水蒸気などの気体となる。
一方、有機物の中には微量の無機物、特に金属元素(カリウム、カルシウム、マグネシウム等)は燃焼しても気体とはならず個体として残る、これが灰である。この灰も、炉内の不規則な空気の流れにより、部分的な1200℃以上の高温にさらされると、クリンカー(釉薬と同じ)と呼ばれる液状になり、不燃物(金属、コンクリート、ガラス、アスベストの類)を巻き込んで固まり、焼却残渣となる。
3)に続く