64.誘引ファン。65.燃えやすい炉の形。66.PCBについて。
64.誘引ファン(IDF)。
裁判の時に裁判長から「ファンとブロアーとはどのように違うのですか」と質問された時、私は「空気を噴き出す機能からの呼び名がブロアーで、空気を送り出す形状の羽根車からの呼び名がファンとなります」と答えたが正解かどうかは今でもわからない。焼却炉の排ガスを吸い出す場合は誘引ファン(induced draft fan=IDF)という呼び方をし、炉の中に空気を送り込むのを押込みファンと呼んでいる。ここでは誘引ファンについての話をしたい。誘引ファンは吸い出したガスをそのまま煙突に噴き出す機能をもっている。
焼却炉の初期の頃は、炉内のガスを排出する方法としては自然通風で、煙突を太くしたり細くしたり、高くしたりして用いていた。煙突の高温ガスのドラフトの力で上昇力が働き、煙突の内外の温度差があるほど上昇力が強くなる。
それが少し工夫されて、煙突の中に上向きの空気を吹き込むエジェクター方式が用いられるようになった。しかしこれらの焼却炉は処理量〔1ton/時間〕程度の小型炉で、殆どの焼却炉は誘引ファンが用いられている。何故なら炉内を負圧にして、炉内に廃棄物を投入する時も炉の周辺から炎ももちろん煙などは一切出してはいけないからである。
小型の焼却炉のおいても誘引ファンを使った方が安全だが、当然コストの問題もあり使えない。しかし、投入時に投入扉周辺から煙を出したくなければ、誘引ファンを使用した方が安全であるが、これは使用者のお望み次第でもある。
誘引ファンは大きすぎては電気代もイニシャルコストも高くつくので、ガス量と焼却炉の静圧が分かれば簡単な計算で軸動力が計算できる。焼却炉の静圧(圧損)は流速とガスの流路の最小断面積で計算は出来るが。焼却炉の静圧は300mmAq(小型炉)~500mmAq(中型炉)くらいと考えて良いから
軸動力(KW)=圧損×風量/(6120×0.7)=〇〇KW この数値にベルトの損失を15%を掛けて出てくる数値より大きな、一番近いモーターの標準KW数値にすればよい。
誘引ファンを大きすぎても無駄な電力を消費するだけだし、小さいと炉内を負圧にすることが出来ない。適当な大きさを選ぶにこしたことは無い。誘引ファンの材質だが、ファンの中を200~300℃の腐蝕性の高温ガスが通るのだから、本体はSUS304、軸はSUS310程度を使用したほうが良い。誘引ファンが止まれば焼却炉も止まるのだから、あまりコスト重視で材質の手を抜かないようにしたほうがよく、潤滑用のグリスも高温用を使用したほうがよい。
(追記) 私も焼却炉の業を30年やって来て代金を支払ってもらえなかったことが2回ある。どちらも誘引ファンの交換であった。計算が如何に正しくとも、焼却炉は業者が目一杯燃やして、それで引き具合は以前の誘引ファンの方が良かったという思い込みがある。計算どうりであっても、前より「引きが」悪いと判断されるのはやむ得ないことだ。計算や理論は全く通用しない世界だから、こんな場合は最初から絶対に請けないか、請ける場合は黙って1ランク(7.5kw→11kw,11kw→15kw)能力を上げておくことだ、但しインバータを使用している場合は交換の必要がある。
65.燃えやすい炉の形。
私が焼却炉を開発したころは、炉の容積は大きければ大きいほど燃えやすいとか、大容量を燃やせると信じ込まれていた。だから競って大型の炉が作られていたし、私も熱負荷が許す限り大きな焼却炉を造っていた。国が編纂した「ごみ処理施設構造指針解説」の燃焼室熱負荷にバッチ燃焼式=4×10⁴~10×10⁴ 連続燃焼式=8×10⁴~15⁴ とあったから、私もお客の要望に応じて、バッチ式の焼却炉に関しては熱負荷に40,000kcal/(㎥・h)という数値を使って内容積100㎥~200㎥の焼却炉も設計していた。
しかし、焼却炉を何台も作るうちに感じたことは、炉内容積が大きければ大きいほどよく燃えるとは限らないと感じた。内容積が大きな炉を望むところはたいがい解体業者で、棟柱のような大きなものを燃やしたいと望むところであった。だから、焼却炉は弁当箱のように平らなもので、横幅10mくらいのものである。これらの炉が内容積のわりに燃えなかったのは、高さが低いせいだと気が付いた。焼却炉は高ければ高いほどよく燃える、だけど無限に高くも出来ないので、一番適当なのはドラム缶の底面積と高さの比だと感じた。多分、ドラム缶で燃やしている方は感じておられると思う。
国は小型炉に関して、焼却炉の熱負荷を250,000kcal/(㎥・h)とするようにと勧めている。だから小型炉であっても、ドラム缶の比律で焼却炉を造り、二次燃焼を上に設けて炎の方向を上に向けるのが一番いい方法である。焼却炉の炉床を広くすると、炉の側壁から入る空気が中心迄届かなくなるから、炉床の幅を2m以上にする場合は、押込みファンの静圧を高くしないといけない。
これで理解して貰えると思うが、炉床が広すぎる炉は燃え残しが多いと感じておられる筈だ。燃え易くするには炉を高くする、これは絶対である。
焼却炉熱負荷とは何かといえば、焼却炉の1立米中、1時間の熱量を意味し、単位はkcal/㎥・hである。この数値が大きい程この焼却炉は効率よく燃えていることとなる。炉中の熱量は木くず1kgの低位発熱量は約3,000kcal/1時間であり、灯油1kgの低位発熱量は約10,000kcal/1時間で木くず500kg、灯油20kgを燃やすと、500×3,000+10,000×20=1,700,000となり、これを熱負荷=200,000kcal/(㎥・h)で割れば、炉内容積は8.5立米となる。これで炉の容積は決まるが、あとは炉の形状である。
炉が四角の場合は、炎を上により高く伸ばす事であり、炉を丸型にすれば炎を回転方向に伸ばせばよい。炎を回転方向に延ばす方法はやっているメーカーもあるが、外壁から入る空気孔を円周方向に少し傾ければよい。但し、パテントになっていないかは確認することだ。
66.PCBについて。
PCBというとポリ塩素化ビフェニルの略で、現在はダイオキシンの一種、コプラナーPCBとして知られている。塩素系の毒性の強い液体で、私は人間が作り出した最も酷い物質だと思っている。使っている分野においては優秀な物質なんだろう。喩えて言えば「スーパーマンが敵に回った」ようなものである。アスベストにしても有用に使っていたころは耐熱性や断熱性においては優秀な物質だった。しかし、それが人体に害を与えるものと知られると、恐ろしい物質になる。PCBも同じようなもので、液状のこれは金属に対しては何よりも安定で、高耐熱性、不燃性、電気絶縁性(大型トランスの中にある)に優れている。それゆえにPCBの毒性が人体に害を及ぼすと解った「カネミ油症事件」を契機に、特定化学物質の指定をうけ、1972年以来、製造、輸入、使用が厳しく規制されている。
一時期、これを燃やすための焼却炉ができないかと相談を受けたこともあった。しかし、アスベスト同様、高耐熱性をもつPCBは、超高温で分解してもそれ自身がダイオキシンだ。燃やしても再合成を起さないようダイオキシンの処理が完全でなければ、炉の周辺にダイオキシンをばらまく大被害を及ぼす。そんな焼却炉を許可してくれる自治体や住民がいる筈もなく、原発よりも怖い物である。しかも全国10万か所の事業所に数千トンのPCBが、毒薬あつかいで保管・管理されており、数万トンの未回収もあるとされている。
野焼きの時代、トランスの絶縁油は業者が柄杓で汲んで、野焼きの上に振りかけていたらしく、知らないとは怖いものだ。まあそれでも野焼きの火は800゚℃を超えないから、耐熱1000℃以上あるPCBは、地面に染み込むくらいの害しかない。しかしこんなものをどうやって無害化するかと思っていたら、化学的に分解する(化学抽出分解)方法が見つかったらしい。数万トンあるPCBをどれだけかけて無害化するのだろう。
人間とはやっかいなものだ。金をかけて恐ろしい「毒」を作り、大金をかけてその処理をする。原発もアスベストもPCBも・・・しかしそれが文化なのかもしれない。
追記 最近テレビで「PCBの処理をしてください」というコマーシャルが流されている。トランスやコンデンサーを内蔵する古い電気器具にはすべて含まれている。それ以外にも塗料や複写紙等にも含まれているが、自分で処理してはいけない。分らないときは県の廃棄物課に相談することだ。