10.計算書の重要性。11.煙が出る原因。

10.計算書の重要性。

 

 私が焼却炉を設計した最初の一台から、計算書に基づいて設計をした。平成元年に、私が焼却炉の設計を引き継いだ時、先任の設計者が手書きの計算書を残してくれていた。先任の設計者は「怖くて逃げた」(会社の社長談)らしいが、計算書はしっかりしていた。暫くして、その計算書の基本が「廃棄物焼却炉・計画と設計」(明現社刊)にあることを知った。私は自分で多くの客観的資料を集め、エクセル(最初は手間のかかるBASIC)でプログラムを作り始めた。今まで多くの県に行き「これはいらない」とか「この数字の根拠が必要だ」とか、廃棄物の担当者に言われながら修正を加え20年が過ぎた。他のメーカーが作ったいろんな計算書を見たが、設計者が作ったものでも参考になるようなものは一度もお目にかかっていない。本当それを見て自分の計算書を進化させたいと願っているのだが・・・。
 

 設計者にとり「焼却炉や集塵機の容積や寸法⌋を決めるのも、「誘引ファンやバーナー、押し込みファンの能力⌋を決めるのも、「煙突の内径や高さ⌋を決めるのも、「冷却水の噴霧量⌋を決めるのも全て計算書で出てきた数値を基にしている。計算書なくして造られた焼却炉を私は信用しない。まして計算書の中に「私の経験によると」「当社の経験値⌋なんて言葉があると、その計算書を読む気がしない。計算書はあくまで客観性を持つことが原則なのだ。

 

 「ガス量、燃焼温度、空気量、油量⌋が全て計算で求められるからこそ⌈排気ガス量、排気ガス温度、ばいじん量⌋求められるのであり、焼却炉全体の形が決められる。焼却炉業者や設計者は勘や経験だけで、適当に焼却炉を作ってはいけない。それはやがて自分たちの首を絞めることになる。

 その計算を基にして、設計者は図面を作る。投入の方法や灰だしの方法、空気供給孔の位置、バーナーの位置や傾き、二次燃焼と空気孔などは設計者の経験、センスで決定する。炉の形状でも炉床の形や、灰出し扉の吊り方、投入扉の起動方法、炉全体の重量に対する架台、煙突の灰出し口や架台などは設計者が決めなければならない。

 これ等を図面化すれば、鉄工所の製缶技術配管技術SUSに対する溶接技術があれば焼却炉は出来る。ただし、高温の製品だから耐火材の加工業者、操作盤を作れる電気業者、アルマー加工が必要ならばその専門業者や塗装業者の協力を得なくてはならない。

(追記)計算書を希望される方に私の作成した計算書を数十点送付させて頂きましたが、手元に一式のみ残しております。エクセルで作りたいとご希望の方に送らせて頂きますので「お問い合わせ⌋からFAX番号と共にご要望下さい。尚、この計算書は集塵機をバグフィルターで計算しております。サイクロンの計算が必要な方は「...専門家のための教材⌋の10)をご覧下さい。費用は一切頂きません。(エクセルに関する質問は受付けません)宜しくお願いいたします。

 

 

 

 

11.煙が出る原因。

 

 最近、焼却炉から煙が出るという話を何軒かのお客さんから聞いた。煙が出るのは不完全燃焼で微粒の炭素の塊(フライアッシュやスス)が見えているが、それ以上に怖いのは、一酸化炭素が噴出しているということである。一酸化炭素自身は無色であり見えないが、同時にフライアッシュが出ることで、見える煙となって表れる。
 原因は空気不足であるが空気不足になる原因がある。①計算が出来ていないため、どれだけの空気が必要なのか判らない。②押し込みファンは正常だが、配管が細いため空気が送りこまれていないこと。③炉内に入った空気が燃焼ガスと混ざり合わないためである。焼却炉に慣れていないメーカーが必ず陥る盲点である。①計算書の不備、②は配管が細い、③は空気供給孔の位置の問題、である。
 焼却炉を燃やすときは、二次燃焼予備加熱することだ。温度は一酸化炭素の発火点609以上、700に予備加熱しておけば一酸化炭素が燃え(酸素と反応)て、不完全燃焼を防いでくれる。予備加熱の出来ない炉は最初の5分程度煙が出ることは避けられない
 話は余談になるが、焼却炉の炊き出し時点で煙が出ると周辺の住民からクレームが出る。それが裁判になると、炊き出し時点で煙突から出る煙を撮影され、それが証拠となって、改造廃炉を命じられるの欠陥の操作の不手際である。焼却炉を作る会社も使う会社も十分な注意が必要である。


 煙の出る原因の

 ①は計算書は役所に提出するだけのものではない。の設計者は計算書の数値を基準にしては設計し、炉のトラブルを見つける。計算で必要な空気量は判るから、焼却炉の製作時点で変えることは許されない。

 ②は誰もが犯しやす、押し込みファンは低圧であることを忘れて、配管を細くしており、空気が足りないとファンの能力のみ上げるという愚行を犯す。配管の合計断面積は空気が炉内に入るまで、ファンの吹き出し口径の面積より小さくしてはならない。空気が炉内に入ってない証拠はファンの吸い込み口に手をかざせば一目瞭然なのだ。

 ③設計者はこれに頭を悩ます。焼却炉の底から高圧の空気を送ればいいのだが、空気穴がクリンカーですぐに詰まる。側面下部から空気を送り込むしかなく、これも炉が大きく、壁から燃焼物まで距離があると届かない。焼却炉の炉床面積を大きくすると、効率のいい炉にはならない。図体のみ大きくて燃焼効率の悪いを、私はたくさん見てきている。

 炉壁の空気穴は大きくするのではなく、径が15Aから32A程度の細管で送り込み、口径の面積配管の断面積以上にするのが鉄則だ。二次燃焼の空気も燃焼を円形にして、周囲から放射状に空気を入れる。燃焼ガスを編流や、ショートパスをさせない空気の供給が望まれる。薄く青いガスが煙突に残るのはこれらが原因である。
 何台もを扱ってきた人は承知だろうが、焼却炉の高さと炉床面積の比はドラム缶くらいが一番いいと私は思っている。

(追記)純粋な木屑、紙屑を燃やす焼却炉なら空気さえ充分に与えれば燃えるから、素人でもヤマカンでも造れるし燃やすことが可能だ。しかし最近のゴミは単純な木屑、紙屑なんて滅多にお目にかかれない。まして廃プラや動植物性残さ、医療廃棄物や動物の死体などは経験、ヤマカン等では絶対に煙や臭いは消せない。これ等を焼却するには材質(成分)を知ること、特に水分量、塩素分が重要で、計算でガス量、熱量を知り燃焼室容積を求め、必要な空気量、冷却水分量、消石灰噴霧量などを求める必要がある。その上で必要なのが設計者の理論、経験(必ず自分で燃やすこと)、センス(多くの焼却炉を見ることによって磨かれる)である。煙突から焼却炉を直すのは、片手間で出来るほど簡単なものではない。

(追記)

 煙を出さない焼却炉の大切なこと、私の結論は   1)効率的な二次燃焼[21,48]   2)燃焼空気の入れ方[21,48]   3)炉の形状[26]   4)炉内を負圧にする誘引ファン[64]   5)適切なバーナー[21,80]   6)運転者の燃焼物と炉の熟知[29,55,69] 。この内何が欠けても煙が出る。

 ダイオキシンを出さないために必要なことは、これに加えて   7)燃焼ガスの急冷[16]   8)高度な集塵装置   9)塩素処理[5]  が必要となる。

 [ ]内の数字は参考になる「焼却炉入門」の番号である。