61.漂流物を燃やす。62.シュレッダーダスト。63.煙突の寸法
61.漂流物を燃やす難しさ。
海水を直に燃やすことはないが、海水に長い間漬かっていたものを燃やすという難しさがある。私は相談をうけたことはあるが実際には燃やした経験はない。例えば古い漁網を燃やす方法がないかという相談を受けたことがある。元々古い漁網は海岸で積み上げて燃やしていたらしい。しかし、廃掃法の改正になって、800℃以上で燃やさないとだめだという事になり、同時に出来たダイオキシン特措法によると、800℃あたりでNaCl(塩・塩化ナトリウム)は、ナトリウムと塩素に分解し、此の塩素がダイオキシンの根源になると言う話だ。今まで海岸で燃やしていたのは、せいぜい700~750℃程度で、塩は分解しなかった。熱しただけで塩が分解したら、台所で焼き塩を作ることもできないし、醤油が焦げても塩素が発生することは無い。800℃以下では焼き塩は出来ても、ナトリウムと塩素は強固に結びついており、台所でダイオキシンはあり得ないのだ。
廃棄物処理法で800℃以上で燃やせと言われたから、塩は分解して塩素とナトリウムになったのである。だから漁網に限らず、海水に漬かっていた西洋木材の樹皮(バーク)も同様の問題に悩んでいた。これを燃やすと言っても簡単に引き受けられなくなった。海水に長く漬かっていたから水分が多い、そのうえ塩分である。この塩分を800℃で燃やすと塩素が出来る。私が焼却炉の大敵は水と塩素(入門5)とクリンカーだというのはこんなところにもある。
同様に海岸に打ち上げられたごみも、燃やすとなると同じように塩分と水分に悩まされることになる。考えられる方法としては一度真水で洗い、天気干しする以外に方法はないのではないか。洗った水は塩水と同成分だから、海に流してもなんら悪影響を与えることは無い。面倒でもこうしないと環境や焼却炉に与える影響は大きすぎる。但し、真水で洗う段階でごみは絶対に流れ出ないようにすることは勿論である。
追記 日本政府もようやく重い腰を上げたようだ。今年6月に「大阪で開かれるG20」において、廃プラごみの問題を世界で取り組む提案をするようだ。これが結果として現れるまでには相当の時間がかかるだろう。その時初めてここで書いたことの難しさを全ての国で感じることになるだろう。
62.シュレッダーダストの問題。
廃棄された自動車はシュレッダーという大型破砕機によって破砕されるが、その中からリサイクル出来る金属類は抜き取り、残ったプラスチック類や内装に使われた人工皮革などのシート類が「シュレッダーダスト」とされる。中には水銀や鉛、カドミウムなどの有毒なものも含まれて、年間100万トン~120万トンとも言われるやっかいもので、以前は安定型処分場(土にじかに埋める)に廃棄されていたのだが、地下水に害を与えるという事で、1996年4月から、管理型処分場(ビニールシートを敷いてその上に埋める)ようになった。しかし、シュレッダーダストの処分量があまりにも多すぎて管理型処分場が満杯になり非常に厄介な存在になった。
焼却しようと思っても、塩素系のシートが多く塩素処理が大変で追っつかない。この間「豊島問題」のように不法投棄も大きな問題になった。現在この処分がどのようになっているか、私にも見当がつかない。中には溶融炉により高温で溶かして路盤材にしているとか、燃焼ガスを使って発電をするとか言われているが、どれも実用化できるとは思えない。溶融炉で燃やしても塩素は元素であるから、排出するガス中の塩素は処理をしない限り無くならない。発電の場合熱交換器の配管類は塩素を含んだガスに耐えられるのか、ガスを直に使った場合はタービンのプロペラは塩素の腐蝕にたえられるのか、という心配がある。煙突から出るガス中の塩素分を取り除くにも、消石灰や苛性ソーダが大量に必要となる。
まさか東南アジアに資源とか発電が出来るとか言って輸出されていないだろうか。そんなことをすれば、いままで築き上げた日本の信用を根本から壊すことになるだろう。いまこのごみの輸出が各国から拒絶される傾向にあるらしい。
ここで11月16日付の新聞記事(サンケイ)を引いてみる
「日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、台湾は、廃プラを含むごみの輸入を10月から制限する通達を出した。マレーシアはいったん輸入をストップし、10月23日から、事実上、輸入を制限した。このほか、タイは輸入許可書の新規発行を一時停止。ベトナムも税関の検査を厳格化した(中略)中国の輸入規制後、日本からマレーシア、タイ、ベトナムへのプラごみ輸出は急増。タイは1~8月に前年同期比7倍、マレーシアは1~7月で同2.5倍に。プラスチック循環利用協会によると、国内の廃プラ総排出量は2016年に899万トン。環境省によると、17年に150万トンが主に中国に輸出され、大半が事業系とみられる」。
事業系のごみという事は産廃であり、この産廃中の廃プラの「かさ比重」は0.35であるから、どんな理由付けがされたか分からないが、いかに多くの廃プラ資源だとか、燃料として輸出されている。国が公認となれば恥ずかしい話である。やはりこの問題は日本の中で解決するしかないだろう。
追記 平成元年5月の茨城健県常総市の、廃棄物業者の火災を思い起こしていただきたい。この火災がまさにシュレッダーダストの燃えている姿である。
63.煙突の寸法の決め方。
私は溶鉱炉、発電所、お風呂屋さんの煙突は専門外なので、焼却炉の煙突の寸法の決め方、材料、仕上げをお教えしたい。煙突は「建築基準法」で高さを規定されており、高さ6m以上のものは看板等と同様で、耐震と風に対する強度を計算(一級建築士の仕事)して消防署に提出して許可を得る必要があるので注意して頂きたい。排ガスの量からの高さの計算は、焼却炉の計算書で計算して出すことになる。
まず煙突内のガスの流速であるが、これはこの円筒の周辺の風の流速(最大ではなく、平均程度)を考え、此れより少し大きくしておいた方が良い。風の平均風速が10m/sec程度だったら、15m/sec程度とする。煙突から出たガスがダウンドラフトという現象(ガスが煙突の風下の下側に出来る真空中に垂れ下がる)で、煙突の風下面を汚すからである。このガスの流速と鉄板の材料寸法(914・1219・1524・1829・2438mm)を円周率3.14で割って291mmΦ・388mmΦ・485mmΦ・・・として決める。
煙突の厚みだが表面にアルマー加工(入門3参照)を行う場合は4.5mm、6mmの鉄板、もしくはステンレスなら3mm程度にしないと高価になる。煙突の高さ9mとした場合は1.8mくらいを1ブロックとして、上下をL形鋼をフランジとして16mmΦくらいのボルト・ナットで150mm間隔で接続する。
煙突の先端は75×8程度の型鋼でハチマキ状にして補強する。煙突の底には径より300mmほど大きな、厚み16mの鉄板を底板として蓋をし、周辺に20~22mm程度のアンカーボルトで最低8か所、基礎上に固定する。底板と煙突のつなぎ目には厚さ12mm程度の鋼板の三角形の補強を全周に6~8か所取り付ける。底板には水抜き(アルマー加工なら溶融アルミ抜き)の穴を最低2か所~4か所設けることが必要である。
煙突が高さ6m以上の場合は、煙突の高さの2/3程度の四角い台形の架台を設けた方が良い。構造は縦四隅に90×90のL形鋼、横桟には75×75のL型鋼、Ⅹ状の補強50×50のL形鋼で構成する。煙突が6m以下の場合は3方向からのワイヤー(ターンバックル入り)で地面と固定する。
煙突の表面の保護はアルマー加工が最適である。耐火材を使うほど高温にはならないし、煙突を腐蝕するほどの塩素ガスを出すことは、焼却炉として法律外であり、それから改造しなければならない。アルマー加工工場は全国に何ヶ所かはあるが、運搬できる範囲であれば運んでも割安である。注意としては
①アルマーのコストは被鉄材の重量に対するコストであるから、煙突材は軽くした方がよく、パイプを使うより鉄板のロールをお勧めする。 ②アルミの溶融点(約700℃)まで温度が上がるので、歪まない補強が必要。煙突内は50mm角のアングルでも10~12mm程度の鉄筋をクロスに溶接するのでもよく、アルマー加工後は切らなくてもいい。
③ボルト穴は溶融アルミで小さくなるから、16Φの穴は18Φ位に大きくしておく。耐熱や硬度があるから後加工が困難である。
④アルミのドブ浸けなので溶融アルミの逃げ穴が必要。これはアルマー加工屋さんによく聞いて確認することだ。