26.燃えない焼却炉。

26.燃えない焼却炉の原因。

 

  焼却炉を作ったが思うように燃えないという話をよく聞く。焼却炉技術コンサルタントの仕事に焼却炉を作る段階でチェックすることと、焼却炉燃やす段階でチェックすることがある。私はこの仕事を初めて、焼却炉が完成し燃やす段階で「この炉は燃えるだろうか?」といつも不安な気持ちにとらわれる。今まで50台あまりの焼却炉を作ってきたが思うように燃えなかったことは一度もない。ラッキーというより自分の理論が間違ってなかったと自負しているしそれが自信にもつながっている。
 
物が燃える理屈は「燃焼する物」「酸素(空気)⌋「燃焼温度⌋でありこれは小学校でも習った。焼却炉もこの三つの条件が満たされる限り間違いなく燃えるし煙も出ない。「燃焼計算書⌋は3条件の量的なもの「燃焼物の量⌋⌈必要な空気量⌋⌈燃焼に十分な温度」の数値を計算するものである。 

 

《燃焼物の量》 

  燃焼物の量で必要な条件は、少なくとも燃焼物焼却炉の容積/以上満たすこと。指定されたものが廃プラスチックだけである場合は、必ず燃えやすい木材を助燃材として混焼することであり、少なくとも廃プラだけで燃やすことは難しい。私も一度、廃プラのみで燃やしたことがある。煙は出なかったが、廃プラが溶けて焼却炉のロストルや空気穴を埋め尽くしてしまい、いつまでたっても消えないで数時間燃え続けた。翌朝は炉内にこびりついたプラスチック(決してクリンカーではない)の掃除に無駄な時間を費やした。これは燃やし方の間違いである。
 

 たとえ混焼でも投入量が少ないと思うように温度が上がらず、余分にバーナーを使いすぎ灯油を無駄遣いする焼却炉となる。誰もが陥りやすいのはこのケースで、燃焼物を多く投入するのは怖いものだ。しかし、燃焼物は供給空気量に応じて燃えるものであり空気量が適正だと爆発物でもない限り、一気に燃えるものではない。私が炉の運転を指導するときは「もっと燃焼物を放り込みなさい⌋というのが常で「こんなに放り込んで大丈夫ですか」と運転者から不安がられる。燃やすものが少なければ、最初からもっと容積の小さい焼却炉を作るべきなのだ。こんな単純な理屈がわかって貰えないことが多々ある。 

 

《燃焼空気》  

 理屈では分かっているのに実際には解っていないのが空気量だ。必要な空気量は計算書に出ているし、私は親切にブロアーのKWまでを指定する。誰もがそのブロアーをつけると十分な空気を供給出来たと思っている。実際に炉内の空気穴に手をかざしてみると、そよ風程度しか空気が供給されていないケースが殆どだ。原因は途中の配管が細すぎるためで、炉内に空気を供給する空気穴は20~25A位のパイプ数十本で供給する。
 
問題はその空気穴に至る配管の太さである。ブロアーの静圧は高圧ブロアーでもないかぎり300㎜Aq(2.94kPa)程度である。この圧力は何を意味しているかというと、ブロアーの静圧は水柱を300㎜押し上げる力ということであり、コンプレッサーのkg/cm²とは全く違うということだ。コンプレッサーの圧力1kg/cm²は水柱を10.3押し上げる力ということで、5kg/cm²ならば水柱を約50押し上げる力であり、配管は細くなっても空気は問題なく届く。30cm50mでは167倍も違う、人はこれを勘違いするのだ。
 

 ブロアーの空気量を炉内に送り込もうとすれば、途中の配管の断面積は、少なくともブロアーの吹き出し口の断面積より大きくする。でなければ空気量は配管内の圧損で全く送り込まれないことになる。これをブロアーの大きさのせいにして、空気量が少ないからブロアーを大きくする。こんな笑えない事実が実際にある。もちろん炉内の空気口の断面積の合計は、ブロアーの吹き出し口の断面積と同じか、大きくなければならない。少なくとも10%程度大きくしておかないと、配管には曲りの圧損、配管の分岐による圧損、配管の管壁の粗さによる圧損もある。(追記) 誘引ファンも同様で、冷却装置のガス管の断面積×本数の合計が誘引ファンの吸込口の断面積より小さい時はが詰まることになるので注意することだ。
 

 廃プラスチックを燃やす目的の焼却炉は多段燃焼となっている。必要空気量は理論空気量の2.5倍(空気過剰係数=m値)にして、一次燃焼室では必要空気量の/程度を供給し二次燃焼室で残りの2/3ほどを使う。空気量のコントロールも必要だが、空気が満遍なくガスと混合するように供給することも必要だ。ガスは供給空気(圧力の高い所)を避けて通り抜けようとするのは当然で、これを編流ショートパスとか言って、煙は完全に消えない原因となる。 
 
炉内に空気を供給してもそれが燃焼物に触れなければ、燃焼空気にならないのは当然である。炉内が熱ければ空気は上方に移動し、下方にある燃焼物には当たらない。それは冷却空気となって炉内の温度を下げる。これは必要以上に容積の大きな焼却炉の欠点である。燃焼物の周辺は一酸化炭素や、不活性な二酸化炭素で覆われており、空気と燃焼物が接触しない。この不活性ガスを取り除くのが誘引ファンの引きであり、ファンによる引きが強ければこの焼却炉の燃焼速度が速くなり効率の良い焼却炉となる。

 

 

《燃焼温度》 

 次に燃焼温度の問題だが、焼却炉を作る際のキャスタブルには、すくなくとも1020wt程度の水が含まれる。キャスタブルを3トン使用した焼却炉なら、300㎏から600㎏の水が含まれていることになる。この水分が完全に抜けきるまで焼却炉の温度は保持できない。これを解決するためには2ヶ月~3ヶ月燃やし続けなければならない。これは最低限必要であるが、これを案外知らない人も多い。

 

 二次バーナーを一次燃焼室で出来た乾溜ガス(ガス)の温度を上げるだけの物だと勘違いしている人が多いので追記しておきます。二次バーナーはガス中の一酸化炭素(CO)と二次空気を反応させるゾーンの温度をCOの発火点(609℃)以上にする為にあるものだ。ガス中のCOと二次空気中の酸素がゾーン中で反応するとCOはCO₂になるために発熱しそれが次々と連鎖的に反応してガスの温度が高くなる、これを自燃と言う。二次燃焼室の出口温度が800℃を越えると油代を節約する為バーナーの炎をoffにする回路にしておく(バーナーファンの回路を切るとバーナーが焼けるので注意)。自燃が始まるとバーナーの炎をoffにしても二次燃焼室の出口温度が上昇することで判る。これで煙は消えるが消えなければ燃焼空気とCOが100%反応していない証拠だ。自燃が起こらないのは空気の入れ方が悪い(ガスがショートパスをしている)か二次燃焼室の容積(ガスの滞留が2秒)が小さい。煙突から煙を出せば「燃えない焼却炉」と言われても仕方がない。(追記)四角い二次燃焼室(加工費が安い)の場合は四方向から均等に空気を噴射してもコーナー部分が空気の当たりが悪くショートパス部分になり発煙性の高い廃棄物では煙が残る可能性が有る。

 

 煙を出さない終わり方の質問を頂いたので追記しておきます。燃えるものが少くなり炉を停止する時は一次燃焼室からのCOが少くなると二次燃焼が働かなくなる。その時は一次燃焼室に火がある限り一次燃焼の空気は止めないで一次燃焼室で完全燃焼すれば良い。一日最後の燃焼物を投入したらその日の仕事は終わりとして炉を離れても良いように自動運転にしておく。二次燃焼室が800℃以下になれば一次燃焼のブロアーで完全燃焼させて、一次燃焼室の温度が150℃以下になればブロアー、バーナーファン、誘引ファンを自動的にoffになるようにしておけば焼却炉は自然に鎮火し停止する。強引に停止して炉の中に水を吹き込んだりすると非常に危険で炉を傷める原因にもなるし熱灼減量が10%以下にもならない。尚この場合も廃プラだけの専焼ではなく助燃材としての木屑を30~50%混焼しておかないと思うような結果にはなりません。


 
炉内に供給する空気は燃焼空気として働くが、同時に余剰空気は焼却炉を冷却する働きをする。空気は不足してもは燃えないが、多すぎるとを冷却する働きがあるから燃えにくい。だから空気量のコントロールが必要で、大型炉ならブロアーをインバーターでコントロールしたり、小型炉ならバタフライバルブで行う。
 
ところがバーナを点火したり、燃焼空気を供給すると、炉から煙が噴き出す焼却炉がありこれが一番扱いにくい。周辺に煙を出さないためには焼却炉内を負圧にしておくことが重要で、そのためには排ガスの引きが大切である。古い焼却炉は煙突のドラフト(通気力)によって炉内のガスを排出していた。この場合は煙突が太いほど、高いほど、ガスと外気の温度差があるほどドラフトが強く、良い煙突とされてきた。これを自然通風と呼ぶが、これに改良がくわえられたのがエジェクター方式である。
 
エジェクター方式とは簡単に言えば、煙突の中にブロアーで上向きの空気を吹き込む。この空気の揚力で排ガスを引き抜くのである。小型焼却炉の殆どがこの方式が用いている。しかし誘引ファンから比べれば引きが弱いのは否めない。

 私は小型焼却炉でも誘引ファンを推奨している。これならば少々の燃焼空気を増やしても問題はない。欠点は耐熱のファン(350くらいまである)を使用しなければならないことで、少し割高になったり、内部を排ガスが通過するため、ファンの材質もステンレス(SUS316L)を使用しなければならない。負圧を一定化するためには炉内の負圧を測定し、それで誘引ファンの回転をコントロールする方法もあるので検討されたい。

 

(追記)炉内の温度を上げるにはの縦方向に燃焼ガスを通すのが一番いい方法だが、炉床から空気を入れると温度は急激に上がり、他にも書いたがクリンカーが出来やすい。ロストルを使う場合は下から引いてもよいが、の上から引く方がは上に上がる習性から、誘引ファンも抵抗なく働く。炉内の温度を上げすぎないためには一次燃焼室の出口に温度センサーや圧力センサーを付け、空気を吸入する誘引ファンをインバーターでコントロールする方法もある。