12)ダイオキシン発生の原因
9-3.ダイオキシン類の抑制
ダイオキシン類の中で一番毒性の強い2,3,7,8TeCDDは水に溶解し難いことと、蒸発し難いことが大きな特性で、ダイオキシン類は全体に同じような傾向をもつ。それゆえ、排ガス中にあってはばいじん、水中にあっては懸濁物質に吸着されていると考えられる。そのためスクラバーにあっては水滴を小さくすることにより衝突効率を高くして集塵効率を上げること。冷却塔にあっては蒸発効率を高く(水滴を小さく)して、蒸発潜熱により排ガスの冷却速度を上げることが重要となる。
ダイオキシン類は有機化合物が塩素の存在下で300~500℃の温度で加熱される時に生成する。そして800℃を越えた状態では100%分解される。ゆえに燃焼中の焼却炉内では、常に分解と合成を繰り返していると言える。分解温度の800℃から、急速に冷却して合成温度(500~300℃)以下の200℃程度に落とすこにより再合成を防ぐ、これがダイオキシン類を抑制する技術と言える。この冷却速度は私の経験でいえば1秒前後と考えられる、とすれば冷却塔内の滞留時間(2~3秒)と流速で冷却塔の大きさが決められる。
◎オキシクロネーション反応。
触媒CuCl₂(二塩化エタン) TCDD(ダイオキシン)
2C₂H₄(エチレン)+4HCl+O2⇒2C₂H5Cl₂+2H₂O
ダイオキシンの出来るオキシクロネーション反応を考えると
ジベンゾパラジオキシン+4HCl+2O₂
⇒2,3,7,8四塩化ジベンゾパラジオキシン+4H₂O
◎水素イオン濃度。pH(ペーハー)( Hydrogen ion concentration)
溶液中の水素イオン濃度をいう。pH>7 をアルカリ性、pH<7 を酸性という。
◎焼却炉におけるダイオキシン発生の原因。
①原因が焼却炉の構造にある。
燃焼で発生したダイオキシンが、炉内を出るまでに冷却されるような構造を持つ焼却炉がある。この場合ガス温度が冷却されてダイオキシンが再合成されることになる。もっとも典型的な炉が、炉壁が水冷(ジャケット)式になっている焼却炉で、水の温度は熱されても、蒸気にならない限り100℃を超えることはない。こんな水冷部がガスに接触する炉壁はないだろうか。
②原因が燃焼と冷却のシステムにある。
燃焼物が熱分解して塩素を出すものが混入している場合、焼却炉では800℃以上で燃えていても、二次燃焼ではバーナーがなかったり、点火されていない場合、ガス温度は炉壁に沿ってゆっくりと下がる。冷却塔がシェル&チューブの煙管の場合も同様である。ダイオキシンを再合成させる温度は500℃~300℃の間で、ここで急冷されないシステムではダイオキシンの再合成は免れない。
③原因が燃焼物にある。
ダイオキシンを生成する元素は炭素(C)、酸素(O)、水素(H)、塩素(Cl)の4つである。C、O、Hはどこにでもある元素だから、どれもなくすことは出来ない。しかしClだけは物が燃えるのには関係がない。このClがなければ、どのダイオキシン類も形成されない。だから塩素を含まない廃プラ(ポリエチレン、スチロール、ABS等)はダイオキシンとは関係ない。廃プラならダイオキシンが出るというのは間違いである。
④原因が炉の運転にある。
焼却炉には適正な処理量がある。処理量によって空気の供給量も、二次燃焼の温度も、誘引ファンの引き具合も適正な数値がある。この適正な量を知り運転しているのが、焼却炉の運転者である。運転者は新しい炉でも、3か月も燃やせばほとんど体でマスター出来る。出来なければこの人は運転者に向いていないと考えていい。この運転者に無理な処理量を押し付けたり、せかしたりすると余分な処理量を放り込んだり、選別して取り除くべきものを見逃すことになる。空気供給量の不足、燃焼温度の低下による不完全燃焼、冷却水の不足がダイオキシンの生成につながるのだ。
⑤原因が炉の維持管理にある。
廃掃法の施工規則第4条の5ヌに「冷却装置及び排ガス処理設備に堆積したばいじんを除去すること」とある。ダイオキシンの再合成は、ダクト内に堆積したばいじんと、その流路を通過する排ガス中のばいじんとの接触による温度低下(500℃以下)で行われると考えられる。解決方法は、このダクト内に堆積したばいじんを除去することで、構造も除去しやすいように、マンホールなどを配置しておく必要がある。
ダイオキシン発生の原因が焼却炉の構造やシステムにある場合には、焼却炉の改造もやむえないことになるが、本当にそれが原因だろうか。ダイオキシンを0にすることは出来ないが、限りなく0に近づけることは可能だ。その技術を常に意識し、開発、改造を進めていくのが技術者の仕事である。
◎ダイオキシンの事件と影響
(1)日本のダイオキシン事故
∞ 1983.2.9宮城県名取川河口のしじみから1,3,6,8TCDDが検出。水田に散布された除草剤CNP中の不純物が蓄積したと推定。
∞ 1983.11.28西日本の9ヶ所都市ゴミ焼却炉の焼却灰と集塵灰の中から2,3,7,8TCDDが検出される。
(2)このPCDDの中で最も恐ろしいのがTCDDで、人類が作りだした毒物の中で、最も強力なものの一つとされている。モルモットに対する、半数致死量は0.0006mg/kgと驚異的な急性毒性を示し、60kgの人間にあてはめると0.04mgで半数が死亡する。慢性毒性も極めて強く、遺伝子を傷つけ催奇形性を示し、奇形児が生れ、発ガン性もあると云われる。
(3)PCDDは何の用途もなく、除草剤製造の副産物として生成される。したがって農薬製造工場の廃油に含まれる可能性がある。
(4)PCDDは有機塩素化合物であり、PCBと同じく油類に溶ける。生物の体内の脂肪分に溶けて、食物連鎖を通じて生物濃縮される。有機塩化化合物は安定で、生物分解が困難である。
10.煙突および排ガスに関する問題。
炉で発生した燃焼ガスが最終的には煙突から排出される。住民にとっては一番影響の多いもので、NOx及びK値と共に、理解する必要がある。NOxとSOxは物を燃焼する場合は必ず発生する有害物質で、大防法ではNOxは容積比(ppm)、SOxはK値で規制される。Nは空気中にあり燃焼温度で発生量が変化し、SOxは燃焼物、燃料中のS成分によって決まる。
◎NOxの低減対策
①高発熱量物の場合燃焼速度を抑制し、最高温度900℃以上高くしない。
②燃焼ガス最高温度滞留時間を可能な範囲で短くする。
③火炉熱負荷を必要以上高めない。
④炉壁に冷却効果を持たせ、火炎温度を必要以上高めない
⑤空気比を適度に大きくとる。(とくに高カロリー物に対して)
⑥燃焼用空気に不活性気体(燃焼ガス、水蒸気等)を混入し酸素濃度を低下させ、燃焼速度を抑制する。
10-1.煙突有効高さ【補正高さ(He)】(Effective sack height)
排気ガスは煙突からガス温度と大気温度との差による浮力(Ht)と、ガス自身の上向きの運動量(Hm)によって上昇する。従って大気拡散の始まる高さは、煙突の高さ(Ho)より高くなる。
大気汚染防止法は He=Ho+0.65×(Ht+Hm) で計算する。Ht・Hmはボサンケの式から計算される値を用いる。
◎排ガス拡散濃度の計算。
煙突の補正高さの算出 He=Ho+0.65×(Hm+Ht)
運動量上昇高度 Hm=0.795×√QVg/(1+2.58/Vg)
浮力上昇高度 1123・・・排ガスの絶対温度 288・・・空気の絶対温度
Ht=2.01×0.001×Q(1123-288)×(2.3log10J+1/J-1)
J=1/√QVg{1460-296Vg/(1123-288)}+1
吐出速度 Vg=Gw×(273+t2)/273/3600×煙突の断面(㎡)m/s
◎硫黄酸化物の排出基準の計算。
硫黄酸化物の許容排出量 q=K×0.001×He²
K・・・K値〔大気汚染防止法に規制〕
◎硫黄酸化物の最大着地濃度及び出現位置。
最大着地濃度 Cmax=0.234Q/UHe2(Cz/Cy) U・・・風速(6)
Sutton式の係数 n=0.25
出現距離 Xmax=(He/Cz)^{2 /(2-n)}
Cy、Cz:Sutton式の拡散パラメータ定数
Cy=0.5 Cz=0.11(大阪地方自治体の推奨基準値)
自然通風の場合の煙突の吸引力U(mmAq)は次のような一般式で表
される。 U=0.8H(353/T1-369/T2)
H:煙突の高さ(m) T1:外気の絶対温度 T2:煙突内ガスの絶対温度
10-2.ダウンウオッシュ(Down-washing)とダウンドラフト(D-draft)
風速が大きくなると、煙突の後部(風下側)に負圧の部分に渦が出来、風で吹き倒された煙がこれに巻き込まれて、地上近く迄たれ下がり、煙突の近くに高濃度汚染が生じる(ダウンウォッシュ)。防止方法は、排ガスの吐出速度を、風速の2倍以上にする。
煙突の近くに建物があると、その風下に渦が出来、煙が巻込まれて地表を流れ、地上に高濃度汚染が生じる(ダウンドラフト)。防止方法は煙突を、建物の高さの2.5倍にすればよいと云われる。
13)に続く。