42.届け出不要の焼却炉。43.焼却炉の設計者。

42.届け出の要らない焼却炉。

 

 ダイオキシン測定を免除されている焼却炉、届け出書の要らない焼却炉ということで、炉床面積0.5平米、処理量50/h未満の焼却炉は数多く出ており、メーカーもユーザーも使いやすい焼却炉として売れたようだ。この小型炉では何でも燃やせるということで、廃プラ医療廃棄物ゴムくず廃油も燃やされた。処理量も制限なく燃やしたケースもあるだろう。

 当然、届け出が不要なら何を燃やしてもいいと考えるのが世の常である。小型の焼却炉廃プラを燃やしても、空気さえ十分に与えれば、煙を出さずに燃やすことはできる。50/h以上の処理量も炉には何の制限もないのだから、何㎏燃やしても判らない。塩化水素ダイオキシンも無色だから、問題の有る炉でも素人(県や市の職員も含めて)には見つからない。産廃業者の中には「煙の出るものは土日や祝日に燃やす」と言う人もいる。 

 

今でも届け出の要らない焼却炉があると思っておられる方は認識を新たにして頂きたい。「ここは東京や大阪と違って田舎だからそんなに厳しくはない」と言う人は考えを改めて欲しい。ダイオキシン塩化水素一酸化炭素NOxSOxの害は田舎であろうと、都会であろうと関係なく有毒ガスなのだ、というより周辺に緑が多いほど目立ちやすい。 

 

東京都の江東区では平成23年4月1日より⌈江東区長が認める小規模の廃棄物焼却炉の設置に関する指導指針⌋新たに制定したので、小規模廃棄物焼却炉を設置する場合は、区長の認定を受けなければなりません。《小規模廃棄物焼却炉とは》●火格子面積又は火床面積:0.5平米未満   ●焼却能力:1時間当たり50kg未満

設置の申請及び認定とは焼却炉を設置しようとする場合は、申請書に図面・仕様書等の必要書類を添付して、区長あてに提出する。申請を行った後、排出ガスの測定を行い、その測定結果を報告し、基準に適合していることが確認された場合は、区長の認定を受けることができる。(この項目は1区、1市町村だけのものではない)

 

火床面積0.5平米未満で焼却能力が毎時50kg未満の廃棄物焼却炉は、構造・設置場所及び焼却対象物が次の基準(入門41に記載)に適合し・・・この基準に適合しない焼却炉は設置を認めない 

 

これは東京都内に限らず岩手県、宮城県、島根県、愛知県・・・全国ほとんどの自治体のホームページにも見られ(ご自身で確認されたほうがいい)、全国的に届け出の要らない焼却炉はないと考えた方がよい。届け出の無い焼却炉は「原則使用禁止⌋なのだ。原則とは「風俗、習慣、宗教上に必要な廃棄物の焼却」「農業、林業、漁業を営むためにやむえない廃棄物の焼却」「たき火、キャンプファイヤーなどの軽微な焼却」がこれにあたる。

罰則は入門41に記載されているように、厳しいものであるから知らなかったでは済まされない問題である。

 

追記 焼却炉の規模に関係なく、平成14年12月に全面的に適用されていることが未だに「申請が要らない」とか、全く規制がないように思われているのが ⌈小規模焼却炉⌋ 炉床面積0.5㎡未満、処理量50kg未満の焼却炉である。すべてのホームページに書いてあるわけがないので書いておく。設置の申請には小規模廃棄物焼却炉申請書。別紙には焼却炉の構造や使用方法を記入。添付書類 案内図 配置図 設備の図面 仕様書カタログ取扱説明書。排出ガス濃度測定結果の報告書、等々

これは私が大型炉を申請したのと変わらない。炉の構造基準についても ①外気と内部が接触しない。②空気供給装置。③外気と接触しないで投入。④800℃で燃焼。⑤燃焼ガス温度を測定。⑥燃焼温度を保つためのバーナー。

 

等、私が大型炉を作った頃と変わらない。大きさが違い、環境アセスメント、CO濃度計、滞留時間2秒が違うくらいで、ほとんど変わらない。違反したものは懲役5年以下、1000万円以下の罰金、はすべて使用者責任である。は大きくても小さくても同じ廃棄物を800℃以上の温度で燃やすのだから、違うことのほうがおかしいと思う。

 

 

 

43.焼却炉の設計者。

 

焼却炉の設計者というものは純粋に法を守っていては、いい焼却炉は出来ないものだと思う。小型焼却炉廃プは燃やせないと解っている。しかし、純粋な木くず、紙くず、繊維くずを燃やすと考えるとこれも間違いである。木くずの純粋なものは、材木商の端材とか間伐材くらいしかないし、純粋な紙くずとなるともっと難しい。繊維くずなんて純粋に木綿や麻なんてありえないし、すべてに廃プラが混入している。そんなものは一般の人に簡単に見抜けるものではない。 

 

 一般の木くずは間違いなく解体木くずで、べニアの合板なら接着剤や塗料は分別するのが難しいし、紙くずには漂白剤や印刷インクや接着剤はすべて一体になっている。まして繊維くずにはアクリルやポリエステルの混紡などは、どう分別しようもない。

 だから計算段階で、純粋な木くずなんかには入っていない塩素分硫黄分も最初から見込んでいる。それは昭和62年(私が設計を始める2年前、勿論私もこの本を繰り返し読んだ)に初版が発行された「ごみ処理施設構造指針解説⌋にも載っている、焼却する廃棄物の成分の一部を表記するとこのようになる 私が色んな資料から使ってきた成分表です。参考にしてください。

 

成分表 炭素(C)水素(H)酸素(O)窒素(N)硫黄(S)塩素(Cl)水分(W)灰分(A) 

  単位はw%

 

◯紙くず C=27.91 H=4.02 O=27.25 N=0.21 S(揮発)=0.01

S(残留)=0.02 Cl(揮発)=0.25 Cl(残留)=0.05 W=35.5 A=4.78

 

◯木くず C=33.65 H=4.40 O=28.02 N=0.11 S(揮発)=0.05

S(残留)=0.05 Cl(揮発)=0.19 Cl(残留)=0.12 W=30.1 A=1.97

 

◯廃プラ C=71.27 H=8.36 O=7.45 N=0.13 S(揮発)=0.09

S(残留)=0.07 Cl(揮発)=0.81 Cl(残留)=0.07 W=0.60 A=11.18

 

◯厨芥 C=15.55 H=2.10 O=12.22 N=0.91 S(揮発)=0.02

S(残留)=0.02 Cl(揮発)=0.01 Cl(残留)=0.10 W=63.60 A=5.47

 

◯繊維 C=35.23 H=4.65 O=27.70 N=0.60 S(揮発)=0.04

S(残留)=0.03 Cl(揮発)=0.20 Cl(残留)=0.13 W=28.30 A=2.26

 

◯医廃 C=41.31 H=6.61 O=15.83 N=0.60 S(揮発)=0.03

S(残留)=0.63 Cl(揮発)=1.23 Cl(残留)=0.15 W=24.08 A=0.13

 

◯動残 C=21.87 H=3.38 O=16.37 N=0.73 S(揮発)=0.03

S(残留)=0.03 Cl(揮発)=0.07 Cl(残留)=0.51 W=38.00 A=19.01

 

◯植残 C=46.75 H=3.38 O=31.55 N=1.70 S(揮発)=0.09

S(残留)=0.09 Cl(揮発)=0.00 Cl(残留)=0.00 W=12.00 A=1.49

 

◯一廃 C=24.63 H=3.55 O=18.40 N=0.73 S(揮発)=0.02

S(残留)=0.02 Cl(揮発)=0.28 Cl(残留)=0.10 W=45.27 A=7.00

 

 医療廃棄物=医廃  一般廃棄物=一廃 動物性残渣=動残

 植物性残渣=植残 と略す。

(注)形式は変わりましたが数値は変えておりません。(追記)私が使っていた成分表を追加します。参考にして下さい。

◎解体廃木材。

 C=41.31 H=4.93 O=36.92 N=0.20 S(揮発)=0.02 S(残留)=0.02

Cl(揮発)=0.07 Cl(残留)=0.05 水分=15.00 灰分=2.38

 

◎廃プラ(RDF)。

 C=71.27 H=8.35 O=7.45 N=0.13 S(揮発)=0.09 S(残留)=0.05

Cl(揮発)=0.81 Cl(残留)=0.07 水分=0.60 灰分=11.18

 

◎塗料かす(某自動車工場の塗料かす)。

 C=75.02 H=3.60 O=5.52 N=0.55 S(揮発)=0.49 S(残留)=0.24

Cl(揮発)=0.16 Cl(残留)=0.02 水分=44.20 灰分=10.20

 

◎活性汚泥(成分は某製紙工場のペーパースラッジ)

 C=17.84 H=1.52 O=2.26 N=0.36 S(揮発)=0.12 S(残留)=0.06

Cl(揮発)=0.00 Cl(残留)=0.04 水分=52.00 灰分=12.00 

 

◎廃油(某自動車工場の廃油)。

 C=22.00 H=2.80 O=14.00 N=0.40 S(揮発)=0.13 S(残留)=0.07

Cl(揮発)=0.55 Cl(残留)=0.05 水分=0.00 灰分=60.00

 

◎廃油(某産廃処理業の廃油)。

 C=43.12 H=4.90 O=0.00  N=0.00 S(揮発)=0.33 S(残留)=0.16

Cl(揮発)=0.45 Cl(残留)=0.04 水分=50.00 灰分=1.00

 

◎おむつ

 C=14.82 H=1.94 O=1.94 N=1.09 S(揮発)=0.12 S(残留)=0.12

Cl(揮発)=0.02 Cl(残留)=0.01 水分=65.40 灰分=7.87 

 

◎ウエス(廃油20%付着)

 C=36.81 H=4.70 O=22.16 N=1.17 S(揮発)=0.10 S(残留)=0.06

Cl(揮発)=0.25 Cl(残留)=0.11 水分=32.64 灰分=2.01

 

 この「ごみ処理施設構造指針解説」と言うのは当時の厚生省水道環境部が監修をした本で、社団法人「全国都市清掃会議」が当時のごみ処理の権威の大学教授や石川島播磨重工、川崎重工、荏原、タクマ等大会社の技術を総結集して作った、ごみ処理技術のバイブル的存在である。 

 

 その本が集めたデーターにも木くず・紙くず・繊維くず中に本来あるはずもない、硫黄分塩素分も混入していることが証明されている。だから設計者廃プラを燃やしてはいけない小型焼却炉を設計する場合にも、計算では塩素硫黄も混ざりますよ、と予見しているのだ。またそれを考えているがゆえに実態に近い焼却炉が計算出来、設計出来るといえる。そして燃やす人も少々の廃プラが混ざっても、煙を消すだけの空気量が計算されているから安心して燃やすことができるのだ。 

 

(追記)焼却炉の設計者は誰も教えてくれない。その上形のない不確定要素の多い「ゴミ、火、水、空気、煤塵」を扱う焼却炉は、設計者の思考の範囲を超えて想像力、経験値の占める割合が大きくなる。設計者は自分の設計したを運転しないと、自分の失敗にすら気づかないものである。焼却炉耐火煉瓦や耐火材の職人さんや、鉄工所で何の理論もなく作ったケースが多く、多分現在も続いているようだ。どんな焼却炉がよく燃えるかは誰も理論的に解明した参考書にはお目にかかっていない。私はそんな中幸運にも30年間、よく燃える焼却炉を造って運転してきた。誰もが失敗し私も失敗したことを書きます。自分で良かったと思うアイデアは入門81「設計者の知恵」に書きました。参考にして頂ければ有難い。

 

◎焼却炉の底から空気を入れない事。流動床の場合は別として底から空気を入れると木屑も、特に廃プラ交じりのは急速に温度が上がり1000℃は楽に超える。だから炉床にクリンカーが出来て、一瞬に空気穴が詰まるので十分な注意、工夫が必要だ。

 

投入口など高温部に耐火材の摩耗を防ぐためのカバーに鉄板を使うときは、地獄にしないで片側か両側をフリーにしないと、鉄板は膨張で波打ったり反りかえる。耐火材をむき出しにすると短時間で衝撃で欠けたり擦り減ることになる。こんな場合は鉄板を厚く(9mm)して、溶接でなくボルト固定の長孔を考えた方がよい。長いときは二つ割にして隙間を開けることだ。

 

静圧300mm程度のブロアーでは、配管をブロアーの口径の面積以下にすると予定する空気は送れない。これは炉内の空気供給孔も同じで、供給孔の面積が配管内径の面積より狭いと空気は送られない。誘引ファンも同様で配管、特に冷却部分でガス管側の本数×配管径の面積が、ファンの吸入口の面積以下にするとは詰まった状態になる。

 

炉内の空気穴は25Φ程度にして四方から万遍なく送り込む。一次燃焼室は対辺が2.5m以上になると、ブロアーの静圧を500mm以上にしないと中央まで届かない。二次燃焼室は偏流やショートパスを防ぐために炉体を円筒にして空気は放射状に入れる。炉体の内径1.4mΦ以上は、静圧を500mm以上にする必要がある。二次燃焼室を円筒にすると高価になるが、としては最も効率的である。この場合も炉内の空気穴の面積の合計は押し込みファンの口径の面積より10%程度大きくする。

 

二次燃焼室には必ずバーナーと、調整可能(バルブ又はインバーター)な燃焼空気を入れる。バーナーは二次燃焼室の出口に温度センサーを設置し、バーナーの炎をon-off出来るようにして二次燃焼を800℃以上に保つ。バーナーファンを二次空気に使うやり方は間違いで、二次空気を運転者がコントロール出来るようにする。燃焼物には煙の多い物もあり、運転者が空気量を加減出来る必要がある。バーナーはオイルポンプと点火の回路が連動していないものを使う。

 

ガスを冷却する場合は水とガス管で間接的に冷却するか、ガスに直接的に水噴霧するかだが、コスト的には水噴霧の方が安くつく。但し水噴霧で集塵機がバグフィルターの場合はガス中の水分で目詰りを起しやすく、ウオーターサイクロン等でガス中の水分を減らす工夫をする。空気で冷却する場合は絶対に間接にはしない。効率的にも悪く、コストも高くつく。誘引ファンを使い、集塵機と誘引ファンの間に外部空気の吸入口をつけ、その口にはバタ弁で調整可能にする。

 

冷却塔やサイクロンスクラバー(写真2003.1)で燃焼ガスが回転している場合、水噴霧は向流にしないと、並流では水が遠心力で外周内面に張り付いて冷却効率が悪くなる。向流の場合はノズルが詰まりやすくなるため、週一ぐらいの掃除が必要となり、外向きに噴霧出来るようにノズルを外し易くしておく必要がある。

 

◎焼却炉の熱量を甘く見てはいけない。時間1ton程度の焼却炉でも燃焼ガスを全部使って、ガス管・水管の熱交換をすれば3~5立米程度のタンクは殆ど数分で沸騰する。必ずバイパスをとって1/3~1/5の熱量に分岐し、コントロールして使用しないと非常に危険である。私も湯が欲しいと言われて3立米のタンクで熱交換したが、瞬間に沸騰した経験がある。安全弁を付けたが高温の湯が噴出して危険なめにあった。注意して頂きたい。

 

油圧シリンダーで押してもチェンブロックで吊っても、二本並列に配置すると同期(チェンブロックもシリンダーも精密器具ではない)が難しくスライド部分が固着したり片効きになる。必ず一本でY型に吊りY型に押す。吊る場合安全率は10倍以上見込み、ワイヤーより品質保証された鎖が安全である。吊りもシリンダーも耐火材に衝撃を与える時は必ず二速を用いる。

 

◎焼却炉の場合は炉の稼働中にメンテナンスやガス測定を行う可能性があり、行う人間の安全性を考える必要がある。下に高温部などの危険性がある場合は絶対に床をネットにはしないこと。

 

焼却炉本体のキャスタブルは振動や投入時のショックで外れることがある。その場合外装の鉄板は真っ赤に焼け、激しい赤外線で数百度に温度が上がる。周辺に配線や油の配管が通っていると間違いなく焼けるので、電気屋や配管工事に注意をすることを忘れない。

 

(追記)法律では投入扉を投入時に火の見えない構造として二重扉が指定してある。この二重扉は決して投入扉と同一に考えてはいけない。焼却炉の内部は700℃~1000℃で燃えているから、耐熱材(断熱材ではない)で作った扉は500℃以上になっており、この扉に廃棄物が直接触れた場合は間違いなく発火して火事になる。直接触れる場合は必ず水冷にするか、二重扉を二枚にして空間を儲けるか、設計者は工夫することだ。それでも伝熱、輻射熱を考えて炉の運転者に投入から炉に送り込む時間を短くするよう注意しておくことを忘れてはならない。

 

 

 

(以下、思いつけば追記します)