80.焼却炉のバーナーの効用。 81.焼却炉設計者の知恵。 

 80.焼却炉のバーナーの効用。

 焼却炉バーナーで燃やすものと勘違いしている人が多い。焼却炉は基本的にはバーナーで燃やすものではなく空気(酸素)で燃やすものであることを認識して頂きたい。バーナーで燃やせば燃料である灯油が大量に必要で、ランニングコストが馬鹿にならない。但しオムツのように水分が50%以上ある場合はキルン炉ストーカー炉のように、乾燥ゾーンを設けるか強制燃焼が必要(入門56)で、この場合小型炉ではバーナーの直火以外に方法はない。

 

 木くず、紙くず、廃プラのように点火すれば燃える場合は、一次燃焼室点火バーナーを設けるか、火を放り込むだけでも良いが、点火バーナーがあれば親切である。点火バーナーは15ℓ/H程度のものでよく、火が付けば手動で消せるものでよい。一次燃焼室で燃やしても空気(酸素)燃焼室に行き渡らないと、燃焼ガス中に一酸化炭素(CO)が残り、これは廃プラが一番甚だしい。この一酸化炭素は生物にとって強烈な毒性があり、火事や鉱山の爆発などでは一番の致死ガスとなる危険なものである。

 

 その一酸化炭素も発火点の609℃以上で空気(酸素)と反応すれば二酸化炭素となり、危険性はなくなる。二次燃焼室は常に609℃以上の温度を保てば一酸化炭素は燃えて、温度が上がり他の一酸化炭素が反応して自然が始まる。この温度を保つために供給空気二次バーナーが必要である。炉の運転開始に二次温度を650℃程度に上げるのが予備加熱であり、二次バーナーの働きである。これさえあれば運転開始時に煙の出ない焼却炉が出来る。この二次バーナーをON-OFFするのは、二次燃焼室の出口につけられた温度センサーであり、800℃を下回ればONにすれば常に法律の規制通り800℃以上で燃える焼却炉が出来るのである。

 

 念のために申し上げておくが、焼却炉に使うバーナーは点火も二次も、バーナーの点火とバーナーファンの回路が別れたものを使用する(同時にON-OFFするものがある)ことを確かめておくことだ。バーナーの火を消してもバーナーファンは絶対に止めない事、バーナーファンを止めると炉内の高温が逆火してバーナーが損傷する。バーナーファンを自動的に止めたければ一次燃焼室に温度センサーをつけて、その温度が150℃以下になった時、焼却炉の機器(バーナーファン、押し込みファン、誘引ファン)を全停止する。早く終わりたいために水を噴霧したりすると危険でもあるし、灰の熱灼減量(入門32)が大きくなることもある。

 

 

 

81.焼却炉設計者の知恵。

 

投入口の斜面(1999.3)。

 廃プラ専焼や廃プラ混焼の炉では必ず、投入口から炉床までのキャスタブルの勾配を作る。斜面の角度は50~60度、長さは3m~10mで、炉内の温度が500℃以上なら、廃プラは殆ど瞬間に溶け、斜面を溶けて流れて炉床までに必ず燃え尽きる。廃プラが直接炉床に落ちるは必ず炉床で液になり、溜まりがあれば表面のみ燃えて全て燃えるのに時間がかかる。

 

鉄板の補強(1999.11)。

 焼却炉の外壁に使用する鉄板は4.5㎜のSSを使用しても全く問題はない。もっと厚いものが必要と言う人もいるが、私はそれで40台の炉を作ってきた。鉄板の内側には300㎜~150㎜のピッチでYアンカーを溶接して、厚さ150㎜のキャスタブルを打つ。耐火材と鉄板は熱膨張に差があり、鉄板を厚くするだけ燃焼時にキャスタブルのクラックが益々大きくなる。鉄板の強度は幅50㎜~75㎜のフラットバーを300㎜の格子状に補強すればよく、溶接も全溶で固着する必要はない。

 

二次燃焼室(1993.7)。

 私の焼却炉の特徴は一次燃焼室の上に円筒形の大容積(燃焼ガスの2秒滞留分)の二次燃焼室が横たわっていることで、これは平成2年の1号機(1990.5)から変わっていない。空気の入れ方は円周より放射状に入れることで偏流やショートパスを防ぐことを目的としている。初めは円筒の内側にCチャンネルを這わし、そこから15Φのステンレスのパイプで噴霧していたが、途中から円筒の外側に配置した。(追記)これは空気の与熱効果もある。バーナーの位置は円筒の端からを燃焼ガスと並流に流す位置にある。これも1号機から変わっていない。

 

防爆扉(1992.5)。

 キャスタブルの自重を利用して焼却炉の中心の真上くらいの二次燃焼室の天井部分に500㎜▢の穴(二次燃焼室の点検口にも使う)にヒンジ付きのキャスタブルの扉を付ける。下から爆発力がかかれば上に跳ね上がって開き、ガス圧を抜く方式にすればよい。防爆扉一次燃焼室の側面に付けてもよいが、爆風で開いた時にそこが人の立ち入らない場所にすることだ。

 

サイクロンスクラバー(2003.1)。

 サイクロンの上部にガス冷却部を設けて、周辺から3段~4段のノズルでスプレーシャワーの水を噴霧する。噴霧方向はガスの回転方向に向流で、ガス出口に温度センサーを設け、設定温度で格段の電磁弁をON-OFFとする。ノズルは詰まりやすいので抜き差しを可能にして掃除しやすいようにする。これを上手くコントロールすれば下に落ちるはサラサラにも、しっとりと湿ったにも出来る。サラサラのダイオキシン濃度が上がり、同時に作業者には嫌われる。しっとりのが一番いいようだ。

 

誘引ファン(2004.4)。

 炉内のガスを吸引する方法として、煙突で燃焼ガスのドラフトで吸引する自然通風。煙突やダクト内に上向きの空気を送り込むエジェクター方式。そして一番強く吸引するのが誘引ファンである。ただ誘引ファンは全てのガスを通すのだから材質を惜しんではいけない。それに高温だからグリスアップを頻繁(週に1回)に行うこと。誘引ファンは面倒でも地面にコンクリート基礎で固定(H鋼で宙に浮かさない)することが肝要で、振動を炉本体に伝えてはいけない。そのため吸い込み口に蛇腹(高温に耐えるもの)を付けることが肝要で、その振動が炉本体のキャスタブルの剥離を招くからだ。

 

煙突の架台(1994.1)。

 煙突の高さが6mを超える場合は建築基準法の工作物にあたり、建築士に耐震、耐風の計算をして貰い提出する必要がある。小型焼却炉の煙突は3方向からワイヤーを張り固定する。大形の炉ではアングルの大小で架台を組み固定して、その形で計算を依頼することになる。

 

レシーバータンク(1994.1)。

 押し込みファンの吹き出し口にタンクをつけ、そのタンクに必要な配管をつけ、配管ごとにバタフライバルブを付けて一次燃焼二次燃焼空気を送り込むようにする。このバルブの操作は燃焼にとって操作盤と同じだから導線を配慮する。この押し込みファンも炉本体に振動を加えないようにタンクとファンは蛇腹でつないだ方がよい。こちらの蛇腹は耐熱性でなくてもよいから、タンクに燃焼室の高温が戻らないよう逆止弁を考える。押し込みファンは低圧だから分岐しても配管の合計断面積は炉内に入るまで、ファンの吸入面積より大きくないと圧損で空気が通らない。

 

オイルタンク(1999.11)。

 大形の焼却炉には大きなオイルタンクが必要となる。1000L未満の灯油タンクなら資格は問われないが、1000L以上のタンクでは危険物の資格が必要となる。このタンクは屋外で設置する場合が多いので、腐食しにくいステンレスを使う必要がある。タンクの底は10度程度の傾斜をつけ低い方に水抜きのバルブを付ける。天板は雨の溜まりを防ぐため円錐形にし全体の溶接は内外から行うが天板は片面溶接にして、爆発が起こっても天方向に抜ける配慮をする。設置する場合は周辺にタンクの容量以上の四角い枡をブロックで設け、油が漏れても外には漏れ出さない配慮が必要。オイルゲージはステンレスのパイプに磁石のフロ-トが動く防爆型でなければいけない。尚、天には給油口を設けるが、是は給油屋さん以外絶対に開けられないよう、ロックしておくことも必要だ。(追記)同じく天板に高さ1m程度の空気抜きのパイプ(15Φ~20Φ)をつける。雨水が入らないように先端は下向きのU字にする。

 

焼却炉の屋根(2006.4)。

 焼却炉の屋根は余り複雑なものを避けることだ。囲い過ぎるとガスが溜まり腐食が激しく一年持たないこともある。横風でガスが流れるようにして、ガスの溜まる処は極力避ける。建物でガスを止める考えは誤りで、焼却炉から不必要なガスは出さない。但し直接の雨は絶対に避けること、高温の炉に雨がかかると腐食が激しく、の寿命や外観の見栄えは半減する。見栄えの悪いは住民から性能も悪いと思われるので注意すること。天井と柱だけなら県は建築物とみなさない、むしろ焼却炉と言う機械の一部か、仮設と見てくれる。県によって見解が変わると思う方は建築課に確認をお勧めする。私は「建築物じゃない」と追い払われた。

 

焼却炉の覗き穴。

 燃えている焼却炉の中を覗くことは運転者でなくとも興味があるので、私は最初耐熱ガラスを嵌めた。しかしガラスの表面が煤で曇った途端に簡単に割れた。仕方なく炉内を覗く100Φの穴にフランジを付け、そこにメクラフランジを付け、一カ所をボルトで止めてメクラフランジを手動で開けられるようにする。位置は焼却炉の側面か裏面の中心で、基礎面から1.2m~1.5mあたりが良い。しかし炉内は誘引ファンで内圧を負にする必要があり、これは絶対条件である。この方法だと炉内爆発物を入れても問題はなく、開けておくとは1m以上吹き出る「投入後3分間は絶対に開けないで」と注意しておくことは大切である。

 

投入機。

 高い所に炉の投入口がある場合、廃棄物業者ならフォークリフトやバケットで投入することを考える。しかし一般の会社や病院の焼却炉では投入機を依頼される。私も何カ所か作ったが、設計者なら簡単に出来る。左右に先端を投入口側に曲げたCチャンネルを建て、間にバケットを設けて電動チェーンブロックで吊り上げ回転して投入する方法だ。ボタン一つで吊り上げ、回転投入、元に戻ると誰でも使用できるから、考えて見られたらいい。これを焼却炉の投入装置と連動されると便利である。                      

                                  ⑬バーナータイル部分

 バーナーの炎は上に曲がる。を目的地に向かわせるためには、バーナの軸を15~30度下向きにする。一次燃焼室点火バーナーは壁面より200~300㎜奥に入れないと上から落ちてきた木屑の破片バーナーに突き刺さることがある。どんな弾みか判らないが、下向きにして奥に入れた物でも、30年に一回だけ木屑が突き刺さってバーナーが破損された。私は点火バーナーは20度下向きに、300㎜奥に入れて、二次バーナーは水平にしている。バーナータイル部点火二次キャスタブルで40度の円錐柱状(外炎が接する程度)にへこませて奥行250㎜ほどにしている。初期の頃に90度の円錐で不完全燃焼バーナーを見たのに学んだ結果である。

 

耐火材のアンカー。(必要なら並田機工の図面をFAXで送ります)

 元々耐火材のアンカーは鉄工所ごとに色々考えて作っていた。ステンレスの棒をV型にしたり、アングルを10㎜程度に切ったりして熔接し、それにビニールテープを巻いていた。これは手間がかかり、大きな焼却炉ではテープを巻くだけでも3日くらいかかった。ビニールを巻くのは金属と耐火材の膨張率の差を考えたらしい。私は鉄板と耐火材の差のほうが大きいと考えている。それ以後ステンレスのY型アンカーが出て、それにポリエチレンの皮膜を巻いたもの(並田機工)が出てそれを採用した。このアンカーを横15㎝、縦30㎝に配置、縦に15㎝ずらして千鳥にし、隣り合う2本は90度回転して溶接した。クラックを防ぐためだが、鉄板と耐火材の膨張率の違いが大きく、耐火材のクラックは避けられない。規則正しいクラックなら問題はないので、耐火材を打つ段階でベニヤなどで仕切って、意識的に膨張率の差を緩和する方法もある。

 

仮乾燥炊きの前後。

 1)焼却炉の組み立てが終わった時、投入時に炉本体が動かない程度に焼却炉の本体の四方にアンカーで固定する。炉本体や誘引ファンのように基盤がH鋼の場合は同じくらいの強度のLアングルを数か所溶接しておく。仮乾燥炊きでは1000℃まで上げるから延びるものは延びきる仮乾燥炊きが終わればダクトや集塵機、誘引ファンや煙突などのズレや曲りを位置修正して基礎に穴を空けケミカルアンカーで完全に固定する。先に穴を空けておくと仮乾燥炊きで穴半個分~1個分程ずれる。そうなると余計に厄介で手間がかかる。

 2)仮乾燥炊きをすると耐火材を打ったの表面は耐火材水分が噴出して汚れる。この汚れを落して耐熱塗料の上塗り(下塗りは工場で)を行う。

 この二つの作業の後、焼却炉本乾燥炊きを2ヶ月~3ヶ月やる必要がある。これは大型も小型も含めて全てのの話である。

 

焼却炉設計者の必需品。

 設計から運転指導までしているとどうしても必要な道具がある。〇メジャー水準器は常に持っているが、他にも次のようなものが必要となる。焼却炉の設置前や計画時に建物の内寸を計る時に〇天井高さを計るものが必要となる。メジャーの限界は5mくらいで、レーザービームを使ったものがありこれは便利だ。焼却炉が出来た時にはテスト段階から〇炉内の高温を計るものが必要で非接触型の温度計もあるが、私は接触型の3㎜Φ×50cmの感温部を持つもので1000℃以上が計れるものを使用しており、これはダクト内の高温も計れる。他に〇騒音計〇pH測定器があれば便利であるが、廃油を燃やす場合はフロート型の比重計も必要だろう。

 

高温部の温度センサー。

 ダクトの温度センサーは平均温度が必要な場合はダクトの中心部、バグフィルルターの入口など最高温度が必要な場合はダクトの最上部の温度が必要で、温度計の感温部がその位置に来るように設置する。温度計はセラミックとステンレスの被覆のある物で、私はステンレスの物を使用していた。セラミックを使用していた頃に飛来物によって一日に二回も折れたからだ。また設置するのはダクトの水平の部分、すなわち温度計が垂直に設置できる位置にしないと、ステンレスの温度計は流速と自重によって曲がることがある。

(追記)            

底押しの灰だしプッシャー(写真が必要なら送ります)。

 固定床のバッチ式焼却炉で、投入を連続で8時間~12時間行う場合は炉床に灰が溜まる。こんな場合は底に油圧の灰だしプッシャーを設ける。炉の後ろにはギロチン式の灰だし扉を設け、その方向に灰を押す。それを何回か繰り返し3~5回に1回位、灰だし扉を開いて外に灰を押し出し、そこに灰のピットを設けておく。これだと灰だしが燃焼中にも出来、固定床の炉でも常に燃焼空間が保てる。但し、誘引ファンで引き炉内が負圧にすることが大切で、ボタン一つで灰だし扉と底押しプッシャーが連動出来れば運転者には喜ばれる。

 

標準的な処理量。

 (申請量は守って下さい) 廃プラ10%を含んだ解体木屑を破砕機で10㎝~30㎝に砕いて、炉床面積10㎡×高さ5m(炉内容積50㎥)、誘引ファンを使用した焼却炉で時間あたり2ton~2.5ton(8時間で16~20ton・最大熱負荷165000kcal/㎥・h)煙を出さず、炉に無理な負荷を掛けずに燃やせるのが標準的な焼却炉である。処理量がこれ以下なら運転方法か炉の構造を見直した方が良いし、逆にこれ以上燃やしている場合は灰の熱灼減量と、炉に無理な負荷を掛けていないかを確認する必要がある。炉に無理な負荷を掛けると炉の損傷(特にバーナー・誘引ファン・温度計・キャスタブル)が多くなり、炉の寿命が短く(10年以下に)なります。

 

 

                                                          注 ()数字は写真の番号です。