49.焼却炉のメンテナンス。50.得体不明の燃焼物。51.耐火材。

49.焼却炉のメンテナンス。

 

 焼却炉のメンテナンスは大きく分けると焼却炉の外観に関するもの。焼却炉の内側の耐火材に関するもの。焼却炉についているバーナー、ブロアー、ファンに関するもの。の三つに分類出来る。基本的には外観の鉄板、配管、電気配線に関してはプロの鉄工所、配管屋さんや電気屋さんに、内部の耐火材(キャスタブル)や断熱材等は、これもプロの耐火材業者に依頼する必要がある。のバーナーやブロアーなどの電気部品についても、バーナー屋さんやブロアーの専門メーカーに頼む会社が多い。これでは修理費も馬鹿にならないし、修理屋さんが直ぐに来てくれるとは限らない。その間焼却炉を止めたり、火を落とすロスが生まれることになる。私はバーナーやブロアーについてはメンテナンスをするように話をする。修理屋さんを呼ぶと必ず二人、三人でやってきて丁寧にやってくれるが人件費は無料ではない。必ず一人2万円~4万円かかるし(今ではもっと高い)、人件費だけでも7、8万円の仕事になり思わぬ出費と言われる会社が多い。        

 特に羽が回転するバーナーやブロアーはメンテナンス以前の注意が必要なのだ。焼却炉の周辺は煤塵や、炉の中を経由した微細な粉塵が多い。これが回転する物には非常に有害で、回転する羽に付着して積もってゆく。ある程度のところでこれが剥がれ落ち、回転する羽のバランスが崩れ、それが続くとベアリングに負荷がかかり、ベアリングが異音を発するようになる。羽に煤塵が付着していないか、3~6ヶ月を周期に注意して積もった煤塵を落とすこと。それも丁寧に、一部だけを落とせばバランスが崩れるから、落とす場合は全部均等になるよう落とすことが必要である。またこの煤塵は焼けたものならミクロン単位以下のフライアッシュであるから硬度の高いものでベアリング等の軸部分には大敵である。軸部分のグリスアップにも注意が必要である。

 バーナーのメンテナンスは大変と思われる方も多いが、決して難しいものではなく、バーナーのポンプやノズル等は注文すればメーカーが即納してくれる。自社でメンテナンスを行えることが一番大事だと思うし、それほど難しくもない。私のような不器用な者でもモーターやファンの交換まで簡単に出来た。焼却炉を運転する人が異音を聞き分けたり、グリスアップを丁寧に行うことは焼却炉の寿命につながると考えて欲しい。

 

 

50.得体のしれない燃焼物。

 

 長年焼却炉をやっていると、どうしても後悔するような失敗がある。同じ失敗を繰り返して欲しくないから恥を忍んで書いておく。私が廃棄物焼却炉を本格的に焼却炉製作のA社で設計を始めた頃、ある業者から「テスト的に燃やして貰えないか」と話が有った。少し不安はあったが焼却炉に自信があったから、A社の代表者が「受けたよ」と言っても黙っていた。 

 当日運び込まれたものは塩ビらしい、自転車のノーパンクタイヤの廃棄物だったそうだ。私がじかに受け取っていれば「焼却は出来ない」と断ったと思うが、A社の代表者は焼却炉を販売したい時だったから、断ることはなかった。その焼却テストが始まった直後「どうしても煙突から煙が出る」と焼却に立ち会ったA社の代表者から電話があった。私が慌てて焼却の現場に行くと煙突からモクモクと黒煙を出している。明らかに空気不足の状態だった。 

 私は急いで二次燃焼の空気のバルブを一杯に開いたが、黒煙は少し薄くなっても消えることはない。私はちょっと考え一次燃焼の空気バルブを閉めた。すると煙は見る見るうちに消えた。一次燃焼の空気と二次燃焼の空気を一つのブロアーで賄う場合、ときどきこんな状態も起こるのだ。設計者にしか分からない思い付きかもしれない。

   

  もう一つ、これは大きな失敗の例だが、医療廃棄物の焼却炉をO日赤病院に収めた時の話だ。Y市の医療機関の研究部門から、テストとして燃やして欲しいものがある、との話を受けた。私の勤めていたB製作業者の社長も、多くの医療関係に焼却炉を売り込みたい時だったから喜んで引き受けた。私は自分の設計した炉に自信があったから自ら運転することで引き受けた。 

   医療機関からは十個、透明のポリ袋に入れて封をしたテスト品が持ち込まれた。テスト品を九個ほど燃やしたが、特に異常もなく最後の袋になった。その袋は黒色で中身の見えない物だった。私は少し不安だったが「中身は同じようなものです」と言う相手の言葉を信じて、最後の一袋を炉の中に放り込んだ。医療廃棄物の場合は袋を開いて中味を確認できない。その袋に火が回った時、私は何か異様な臭いが炉の隙間から漏れたのを感じた。

 

 

「中にどんなものが入っていたのですか」と聞いたが「同じようなものです」という返事しか返ってこなかった。その時O日赤病院の事務方が部屋に飛び込んできた。

 

 「おい、何を燃やしているんだ!」煙が病院の屋上の煙突から出ていて、近所の住民から数件、病院の事務局に電話がかかっているという。私は病院の焼却炉でテスト品を燃やすことを了解してくれた、O日赤の営繕の担当者に謝りながら、バルブの操作をしたが煙は一向に消えなかった。こんなに焼却物の燃え尽きる時間が、長いと感じたことはなかった。医療廃棄物の専焼ので、これほどの煙を出した黒い袋の正体を、私は現在でも思いつかない。どんなに自信があっても得体のしれない物のテスト燃焼は、絶対に軽々しく引き受けてはならないと深く反省した次第である。

 

   

 

51.  耐火材(キャスタブル炉材) 

 

一般に「キャスター」と呼ぶのは旭硝子の商品名の「アサヒキャスター」で、耐火性骨材とアルミナセメントを混合したものである。水で捏ねて型に押し込んで込んで固めるのは、コンクリートに似ているがコンクリートより反応熱が高く、硬化する速さはコンクリートより早い。コンクリートは流し込むというものだが、キャスタブルは小型のコンクリートミキサーで捏ねて、押し込むようにして手早く仕事を進める必要がある。あらかじめ炉の鉄板にY型のステンレスのアンカーを溶接で固定しておく。炉壁の厚み(約150mm)に、セパレーターで固定したコンパネとの間に、キャスタブルを押込んで成型する。この場合キャスタブルに空洞が出来たり、クラックが出来ないようにコンパネの表面側から、ハンマーで叩いたり、バイブレーターをかけて隙間をつめる。バイブレーターは掛けすぎると、キャスタブル内の比重の違いで層が出来て弱くなる。 

 

キャスタブルを捏ねる場合の水は成分の不明な山の水より水道水を使う事。寸法は僅かでも大きく造り過ぎると、固形してから小さくしようとすれば、サンダーで削ることも困難なほど硬くなるので、相当の労力と時間のムダになる。寸法は少し(mm程度)控え目にして、耐熱性のヤーンで隙間を埋めること。大型の板状の部分はH鋼(150×150)などで定盤を組み、平面を保ったうえで乾燥して固めないと、僅かでも反り返って固まれば使い物にならないので注意することだ。 

キャスタブルは常温である程度乾燥し、あと300℃、600℃、800℃でそれぞれ24時間ほど熱し、その間の300℃を24時間ほどかけて昇温し一週間ほどかけてゆっくりと燒結する必要がある。1000℃程度まで燒結すれば、あとはキャスタブル内に残った水分を完全に乾燥するため、ヶ月次バーナーも使って初めて焼却炉は完全乾燥したと言える。 

 

耐火材高温の炉内では物理的に弱くなり、木材などに削られたり、クラックで部分的に割れたりスパークリング(皿状に割れる)で薄くなる。この炉壁の補修は鉄材やアンカーが見えた段階で行う必要がある。補修する周辺の耐火材をブレーカー等で50cm四方を削り取ってアンカーを溶接し直し、セパレーターでコンパネを固定して捏ねたキャスタブルを押込み、炉内1000℃余りにゆっくりと熱する。 

キャスタブル1000℃を越える高温になると微振動でも割れたり、クラックが入る。だから焼却炉に直接接続する大型ファンは、振動の伝達をさけるためにフレキシブルダクトで接続することが必要だ。