37.炭化炉は有効か。38.低温で働く燃焼装置。39.環境アセスメント。

37.炭化炉は有効か? 

 

 放射能が軽減(事実かどうかは知らない)されるので、東北に炭化炉を持っていきたい、という話を聞いた。炭化炉は外部から酸素を与えず、炉内の未燃物を一酸化炭素が分離する温度以上にして、そのガスを二次燃焼室以下で無毒にする炭化炉の中には炭素のみが残る。木くずの炭素比率45W程度だから、理論的に言えばそれだけのが出来ることになる。 

 

     業者の売り込み文句として、廃プラ一般廃棄物医療廃棄物まで活性炭にすることが出来る、と書かれている。はたして本当だろうか。一酸化炭素が燃焼物から分離する温度では燃焼物に含まれている塩素分も分離し、水の分子があれば塩化水素も出来る。どんな一般廃棄物にも医療廃棄物にも塩化ビニール(PVC)塩化ビニリデン(商品名サラン)がなくならない限り塩素は混ざっている。塩素分一般廃棄物には0.28W程度、医療廃棄物には1.2W程度含まれている。医療関係のディスポーザブル器材に限ればPVC濃度20Wにも達している。  

 

 メーカーにどうするのかと聞けば前処理(選別)で取り除くというが、一般廃棄物は出来ても医療廃棄物の選別や破砕は禁止されている。たとえ、感染を恐れず無理に選別したとしても、専門家は別として、目で見て塩化ビニールと、塩素の含まれていないポリエチレンスチロール、ポリプロピレンを見分ける人がいるのだろうか。 

平成年に厚生省が監修した「ごみ処理施設構造指針解説」の中にごみ組成別元素組成というのがある。その中に揮発性塩素残留性塩素の割合が示されている。揮発性0.22残留性0.04繊維揮発性0.26残留性0.16プラスチック・ゴム・皮革揮発性3.68残留性0.34とある。塩素は元素であるから、排ガス中から揮発性塩素を取り除く方法は消石灰か、苛性ソーダと反応させて無害なものにするしかない。あとは水噴霧で、親水性の塩素を希塩酸として取り除くとだ。しかし、ガス中の揮発性塩素は取り除かれても、燃え殻の中の残留性塩素は、炭化物の中に吸着される。炭化炉はこの炭化物が製品なのだ。
 

塩素を吸着した炭化物(活性炭)は植物を育てる土地の土壌改良剤にも使えないし、親水性(水に溶ける)の塩素では水の浄化にも使えない、まして燃料に使用すればその焼却炉には脱塩装置を設けねばならない。現実にある町で採用された炭化炉は、製品に塩素が含まれているため行き場がなく倉庫に積み上げられたまま増え続けているという。この炭化炉を作ったのは名を知られた大メーカーである。その大メーカーが責任上売ろうとしても売れなかった活性炭である。こんな単純な理屈も知らずに炭化炉を作ったのだろうか。 

 

 

以上の事から考えると、特に塩化ビニール塩化ビニリデンが混じった一般廃棄物医療廃棄物が活性炭になるわけがない。成ったとしても有価物にもならないし有効に使うことも出来ない。山林の間伐材木工所、材木屋の端材以外、廃棄物を有効な活性炭にすることは無理だと考えたほうがいい。 

 

 

38.低温で燃える燃焼装置。

 

どんな学者の説によるかは知らないが、最近「低温で燃える焼却装置⌋の話をよく聞く。発熱はマグネットによるものか、電磁波によるものか、これもよく判らない。マグネットが空気中の酸素を富加するという話も聞く。説明によると300℃くらいで熱分解して灰化するから、ダイオキシンの合成以下の温度であり、ダイオキシンは出来ない。発火点でいえば木くずは250~260℃、新聞紙は291℃、木炭は250~300℃、タイヤは150~200℃というから、産廃はどれもこの程度の温度で発火する。

 


 熱で分解するとはこの点で、一酸化炭素(CO)炭化水素(CnHm)どが発生する。一酸化炭素発火点は609℃
であるからこの温度以上にして燃やせばいい。たき火でもだいたい650℃くらいで燃えているが、あの炎は木が熱で分解して一酸化炭素が酸素と反応して燃えているのだ。日本の法律(廃掃法)によれば800℃以上に加熱する必要がある。この有機ガスを処理せず大気中に放出すれば、生物にとっては有毒となる


 

焼却炉で物が燃えて発生した一酸化炭素や二酸化炭素が覆うため、未燃物に酸素が届かない。そのために燃え難くなるが、この発生ガスを誘引ファンで吸引して取り除き、酸素が未燃物に接し易くしてやることで燃焼速度をあげる。その法則に従わない低温燃焼装置は燃焼速度が極端に遅いと考えられる。(追記)標準的な処理量は炉床面積10㎡の炉で1時間に2~2.5tonが処理出来る(···入門・81.設計者のアイデア)。

 

同時に日本のお役所は廃掃法を厳守するから、これを焼却炉と考え、ガスの温度が800℃を超えないと設置を認めてくれないだろう。低温燃焼装置を廃掃法に通そうとすれば、二次燃焼室にはガスの温度を上げるバーナーと共に、一酸化炭素と反応する燃焼空気が供給されなければならない。そのことによって一酸化炭素自燃し無害化する。


 全てではないだろうが、私が関与した低温燃焼装置は中国で安く造られていた。ご存知かも知れないが、容易に酸素と反応するガスは人間にとって有毒であることは間違いない。一酸化炭素が呼吸器から肺に入ると、酸素の210倍くらいの力でヘモグロビンと結びつく。ヘモグロビンは脳に酸素を送ることが出来ず短時間で脳は壊死する。脳が破壊されると、命が助かっても植物人間になる可能性が高い雪に閉じ込められた車の中や、練炭や炭で起こす中毒や、炭鉱事故などで問題になるのもこの一酸化炭素である。(追記)焼却装置の危険な一酸化炭素をなくすには二次燃焼を設け、酸素と結合して完全燃焼をさせる以外に方法はない。その為には一次炉からきた燃焼ガスを一酸化炭素の発火点(609℃)以上に上げて、同時に空気を与え、二次燃焼(自燃)用の空洞を与える以外にないだろう。一次燃焼で250~400℃くらいの燃焼ガスなら、結構大きなバーナー(止められないから油代は高くつく)と、2秒滞留ほどの大きな空洞が必要になる。決して二次温度計を800℃以上に保つためのバーナーにしてはならない。そんな小細工が通るほど日本のお役所は甘くないからだ。

 

 

 

もっと恐ろしいものを紹介するとそれは塩素ガスである。最近の建築廃材にしても家庭ごみ、さらにいえば医療廃棄物、燃やせば塩素分のものはない。建築廃材の中にはパイプや波板、トユや廻縁、レザー、塗装、プリント合板の接着剤、印刷インク、電線の被覆のほとんどが塩素系である。家庭ごみでも同様、これらに塩化ビニリデンというプラスチック、商品名のサランラップである。医療廃棄物20%が塩化ビニルというデータもある。これをどうするのだと言えば、前処理で選別して取り除くというが、それは現実には全く不可能である(取り除かなかった炉の使用者が悪者にされる)。この塩素ガス一酸化炭素より怖く致死ガスである。一酸化炭素塩素ガス、これを処理する方法が焼却炉のプロの私に対して明確に説明できない限り、私にはこれを推薦する勇気はない。まして日本の厳しい廃掃法には通らないから、途上国に売り出すなんてことがあれば、それは日本の技術を信じている国に対して、裏切りであり、恥さらしである。

 

  

39.環境アセスメントについて。

 

 自然環境に手を加えることにより、あるいは建築後に環境破壊、汚染の畏れのあるものに対して、事前に客観的に調査、予測及び評価を行う手法である。基準値以上の焼却炉(炉床面積2平米以上、又は処理量200kg/h以上)や破砕機等を設置する場合には義務付けられる。

  簡単に説明すると、測定する位置は4シーズン(春夏秋冬)で、焼却炉設置予定地を囲む4点つごう16点となる。その位置でNOx、SOx、一酸化炭素、塩化水素とダイオキシンの影響がどのように及ぶか、風量、風向き、温度等を測定して予測の手段とする。

  

 1点の測定、100万円を基準にして1600万円(測定業者の概算)くらいで、測定には丸1年かかる。この測定データーには近隣位置で過去に測定されたデーターがあれば、それを使用することが出来る。あとは、測定業者と県との話し合いで測定位置を減ずることが出来る。

  これにも矛盾するところがあり、産廃業者Aが焼却炉を作るために環境アセスメントを実施した場合、隣に同じく同業他社Bが来て焼却炉を造る場合は、そのデーターがそっくり使用できる。「そんなバカな話があるか」という産廃業者の気持ちも解る。